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SICF22 グランプリアーティスト インタビュー

作品における「用の美」と「不用の美」とは?

岩江圭祐(いわえけいすけ)、 渡邉康太郎(わたなべこうたろう)


思わず触れたくなるような静謐なテクスチャーが目を引くアルミニウムの小さなオブジェや、文字盤のない腕時計。「SICF22」(第22回スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル)で新たに設立された「MARKET部門」でグランプリを受賞した岩江圭祐の作品に明確な用途はなく、それらを持つ人、使う人の時間ともに刻々と変化を見せていきます。世の中を席巻する「もの」とその「良さ」に疑問を投げかけると同時に、そのものと共存する喜びも示してきた岩江に、スパイラルで行われるSICF22 MARKET部門 グランプリアーティスト展「USEFUL?」(4月29日〜5月8日)を目前に話を聞きました。展覧会にも出品する作品を実際に見ながら読み解くのは、使い手が作り手に、消費者が表現者に変化することを促す「コンテクストデザイン」に取り組む渡邉康太郎です。

—今日は、岩江さんがこれまで手がけられた作品を実際に見ながら話を進めていけたらと思います。まずは、平安時代の口内玩具「舌すさび」から着想を得た、手を慰める遊具シリーズ「SUSAB」。そこからいくつかのシリーズをお持ちいただきました。独特の佇まいはつい手にとってみたくなります。

岩江:新作の《SUSAB|game》は、オセロや将棋などボードゲームの駒の形をモチーフにした作品です。僕自身はボードゲームをほとんどしないのですが、競技者の手さばきを見るのが好きで、将棋のテレビ中継がやっていたら見てしまうんですよね。実際にゲームをしなくても、駒に触れて楽むような嗜好品として作りました。

渡邉:面白いですね。たとえば将棋の駒の「金」と「銀」は同じサイズのはずだけど、文字が消えた瞬間に突然佇まいが変わりますね。それに初めて気づきました。そもそも金か銀のどっちかなのかすら、わからない。オセロも、「石ってこんなに大きかったっけ?」と新鮮な驚きがあります。

グランプリアーティスト展 岩江圭祐「USEFUL?」出展作《SUSAB|game》    

岩江:僕の中の重要な関心事のひとつに、文字をはじめとした記号的な固定観念を対象から取り除きたいというものがあります。そうするとまったく違うものに見えますし、そのズレに着目しながら作品を作ってきました。

渡邉:日常生活にあるものをオブジェ化することによって、別の崇高な気配が宿ってくるのが面白いですね。そういう意味では、「見立て」の考え方を連想しました。僕が好きな歴史上の人物に古市澄胤(播磨公)という禅僧がいます。道で見かけたただの屋根石を「山の景色のようだ」と見出して、「残雪」と銘をつけて珍重した。いわゆる「見立て」の象徴的なエピソードです。ふとしたものを選びそこに名前を付けたり意味を与えたりすることに、もともと日本で暮らす僕たちは馴染んでいたのかもしれないと《SUSAB|game》を見て思い出しました。ちなみにこちらのオブジェは何ですか?

岩江:これは《SUSAB|soap》シリーズのひとつで、小さくなった固形石鹸に新品の石鹸をくっつけた状態を模しています。

渡邉:なるほど!石鹸あるあるですね。クルマのボリュームモデルのようにも見えます。表面の、一見すると自然の石と見紛うような絶妙なテクスチャーはどうやって仕上げているんですか? 家に飾りたいなぁ。

岩江:金属をつるつるに磨きあげたあとに、最後に火でちょっと表面を溶かしています。最近、石をモチーフに自然物の良さを伝えるプロダクトが増えている印象があって、そういうのを見てしまうと、「人工物だって自然物に負けない良さがある」と提示したくなる性格なんです。

グランプリアーティスト展 岩江圭祐「USEFUL?」出展作《SUSAB|soap 1・1/12》

渡邉:石鹸版の置換化石みたいですね。自然現象のひとつに置換化石というのがあって、恐竜など太古の生物の骨や殻が地層に埋まり、その周りに鉱物があった場合、骨が化学変化で失われたあとに周囲の金属に置換されることがあります。素材が移ろいながらも、形だけは残る。金属の骨格標本が生まれたりもするのですが、その状態を連想させます。この、手元にある時計はどのような経緯で制作したんですか?

岩江:この《Aging Watch》は去年行われたSICF22でも展示をした作品なのですが、通常の時計にある文字盤と針ではなく、金属盤の経年変化で時間の流れを見せるというコンセプトで作りました。当時はApple Watchが大ブームになった頃で、その便利さに抗う気持ちで作り始めました。さきほど《SUSAB|soap》でも話した人工物の良さにも通じるのですが、僕には天邪鬼のところがあって(笑)、つねに「良い」と言われているものの反対の価値を日々探しています。何かがない、足りない、良くないとか、そういうことへの眼差しから制作が始まります。

グランプリアーティスト展 岩江圭祐「USEFUL?」出展作《Aging Watch》

解釈を保留し続けることも豊かさである

渡邉:SICF22では、岩江さんはEXHIBITION部門ではなくMARKET部門でグランプリを受賞されたんですね。作品を応募するときにあえてMARKET部門を選んだということですか?

岩江:はい、意図的にそうしました。当初はEXHIBITION部門で応募しようと準備をしていたのですが、MARKET部門が新しくできたと知り調べたら、自分のための部門だと思うくらいしっくりきたので応募しました。

渡邉:それはなぜ?

岩江: MARKET部門の要項で「生活を豊かに彩る作品」やスパイラルの活動テーマ「生活とアートの融合」というのを見かけて、自分の作品のベースには「日常」や「生活」があるのでぴったりだと思いました。あとは、これまで僕のオブジェ作品を見たお客さんに「これに金具を付けたらブローチになるね」と、実用性がないことを暗に指摘されたり、逆にアートの領域からは実用性に寄ると見下されてしまうような印象があって、自分の作品はどっちつかずなんじゃないかと思っていました。「MARKET」はそんな中間領域にいる自分に合うのではないかと感じたのも大きな理由のひとつです。

グランプリアーティスト展 岩江圭祐「USEFUL?」出展作《使えない貯金箱》

渡邉:実用性の話になりましたが、「そもそも用途とは何だろう?」という観点でも考えてみたいですね。用途が空欄のものは世の中にはたくさんあります。たとえば、金沢の鈴木大拙館は実用的な展示スペースは建築全体の半分にも満たない代わりに、庭の水盤がほとんどを占めています。そこで、たまに静かに波紋が起こる。同館は建築家の谷口吉生さんが設計した文化施設ですが、そこには「仏教哲学者である鈴木大拙の言葉に触れたいのであれば、展示室ではなく本を手に取り自ら考える時間を取ってほしい」という建築家や施主の意思が投影されているように感じます。あくまで僕の想像ですが……。また瀬戸内の豊島美術館も、空白が多い広い空間で、みなさん寝転がるなど思い思いの時間を過ごしています。そうした「用途を空欄にする」ことと、見立てに代表されるような「用途をずらす」ことがあるなら、岩江さんはそのどちらでもない「用途を摩滅させる」ことを試みているのではないでしょうか。

岩江:そこは自分でも知りたいポイントなんです。いつも、自分でもこれが何になるのかとか、どういうものなのかということがまったくわからないままを作り始めるんですね。そこに意味を見出そうとしてもできない部分もあって。

渡邉:必ずしも美を意図せずに作ったものの機能美が浮き上がってくることが民藝における「用の美」だとすると、岩江さんの作品は、あえて用途を摩滅させることで、むしろ作る行為や仕上がりの中に別の意味を生じさせる「不用の美」と言えるかもしれない。 人はわからないものが怖いので、理解できないとき「これは何ですか?アートですか?デザインですか?工芸ですか?」と訊ねますよね。でも答えの前後で作品に何か変化が起きるかというとそうでもない。自分が理解できる範囲内に作品を飼い慣らすための質問に過ぎないならば、わからないままのほうがいい。わからない状態をむしろ長く保つことのほうが、潜在的な創造力が高いのではないでしょうか。岩江さんの作品に感じるのはそんな未知の可能性です。

岩江:ありがとうございます。ただ、僕自身は、自分の作品は見る人を突き放してしまっているから歩み寄りが必要じゃないか、いい意味でのわかりやすさとは何かを考えることがあります。これが良いと自分で信じて作品を作っているので、なかなかそのバランスを見つけるのが難しいのですが……。

渡邉:突き放せるようなエネルギーと勇気があるって、素敵なことだと思います。僕はそこに憧れみたいなものを抱くなぁ。スーザン・ソンタグが『反解釈』でこう書いています。「本物の芸術はわれわれの神経を不安にする力をもっている。だから、芸術作品をその内容に切りつめた上で、それを解釈することによって、ひとは芸術作品を飼い馴らす。解釈は芸術を手におえるもの、気安いものにする 」。つまり、アートを理解可能な範疇に貶めようとすること、これは俗物的根性であると言っている。であるなら、解釈を保留し続けることもまた楽しいと思えたほうが、ずっと豊かですよね。

岩江:保留のままでいい。そう言っていただけると自信になりますね。

岩江圭祐(いわえけいすけ)
1987年東京生まれ。多摩美術大学工芸学科博士前期課程修了。2015年より金属作家としての活動をスタートし、東京を中心に個展や企画展で作品を発表。人間の行動原理や記憶にまつわるノスタルジックな感情から着想を得て作品を制作。用途ばかりにとらわれない、美しくもちょっと可笑しな存在として使い手に寄り添う「要具」を制作する。主な受賞歴にSICF22 MARKET グランプリ(2021年)。現在は、アートワークやプロダクトデザインに加え、オリジナルの金具や什器の制作など様々な分野で活動している。

渡邉康太郎(わたなべこうたろう)
1985年東京都生まれ。Takram コンテクストデザイナー、慶應義塾大学SFC特別招聘教授。使い手が作り手に、消費者が表現者に変化することを促す「コンテクストデザイン」に取り組み、サービス企画立案、企業ブランディング、UI / UX デザイン、企業研修など幅広いプロジェクトを牽引。主な仕事に ISSEYMIYAKE の花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」シリーズ、一冊だけの本屋「森岡書店」の立ち上げ、日本経済新聞社のブランディングなど。J-WAVE のブランディングプロジェクトでは、新ステートメントの言語化とロゴデザインを行い、2020 年度グッドデザイン賞を受賞。同局の番組「TAKRAM RADIO」ではナビゲーターを務める。ほか、国内外での受賞や講演多数。独 iF Design Award、日本空間デザイン賞などの審査員を務める。近著『コンテクストデザイン』は青山ブックセンター2020年総合ランキング2位を記録。三徳庵茶道正教授、茶名は仙康宗達。

インタビュー・文 堀添千明

Photo: Kazue Kawase

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