生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第17回は陶芸作家 秋谷茂郎さん。陶芸は植物との関係に似ているという秋谷さんに、土と向き合う際に大切にしていることなどをお伺いしました。
──適度な距離感で適度に土を触る
陶芸、特に器はそうなのかと思うのですが、素材の粘土を形にするためには、柔らかめにしたほうが良い土もあれば、固めにしたほうが良い土もあって。一つの工程を終えたら、すぐに次に移れるかというとそうではなくて、早くて一晩くらいは寝かしておくんです。土が変化して、乾きが進むのを待って、高台を削ったり、化粧の白い土をかけたり──手を加えたら落ち着くのを待って、土のベストなタイミングを見計らっています。
植物も季節によって水を毎日あげることもあれば、冬は2、3日に一回で十分だったりしますよね。焼きものも同じで、自分が主役、土が主役ということではなくて、適度な距離感で適度に土をいじって、でも、傍観者ではなくて作っているものへの思い入れはあって──そうやって進めていくあたりは、植物を育てるのと似ていると思います。土に無理をさせるようなものもあるけれど、そこにもギリギリのラインがあって、どの程度までいけるか、というのは自分の力だけでは無理なので、ちょっと引いて考えているところがありますね。常に自然、素材というものはすごく意識させられます。
──観ているだけで「何か感じる」
大学を卒業する頃、岐阜で活動をしている吉田喜彦さんという作家の個展を訪れた時、とても衝撃的な経験をしました。茶道具をメインに作っていらっしゃったのですが、自分がこれまで観てきたものとは全く違ったんです。何と言うか、空気感が全然違うんですね。それを観て、自分は器の道に進もうと思いました。
それまでは、比較的コンセプチュアルな部分に重点を置いた教育を受けていて──自分の作品のコンセプトを説明したうえで、その造形を見て評価される。コンセプトを聞いて、読んで、理解する、という流れだったのですが、吉田さんの作品はそれが全く必要ない、観ているだけで「何か感じる」という不思議な感覚。それがすごく良くて。こういうことを自分もやりたいと思いました。
後日、吉田さんの工房にお邪魔したのですが、通された客間にはアフリカや東南アジアの民具とか、プリミティブなアート作品がひしめいていて。なにか感じたことを言ってください、と質問をされたのですが、その時、自分は「呼吸しているみたい」って答えたんです。それからも何度かお邪魔して、色々なものを見せてくださったのですが、ご自身の作品がこれらのアート作品のようになるといいと思っている、とお話しされていたのが印象的でした。
──「呼吸感」が感じられるもの
いま、独立して20年くらい経つのですが、色々なものを作ってきて、「呼吸感」だけは無くしてはいけないと思っています。最近、自分の作品はシンプルにミニマムになってきているのですが、そこが失われてしまうと大量生産品と変わらなくなってしまうから。呼吸感が感じられるものを意識しています。
「呼吸感」を具体的に説明するのは難しいのですが──轆轤をひいている時の形の張らせ方とかでしょうか。型を使って作っているものは不思議なのですが、止まって見えるんです。でも、轆轤でひいたものはその人のリズムや息づかいが出ているんですね。轆轤は土をまっすぐ引き上げているように見えるのですが、実際はねじれながら上がっていくんです。紙をくるっと筒状に丸めて中心の芯を引っ張っているイメージですね。引き上げられているけれど、螺旋を描いている。土を練る「菊練り」も中の空気を追い出しながら、土を渦巻状に巻いているんです。巻いた土の芯をそのまま轆轤に据えて、引き上げて成形しているんです。ちょっとずつ、ねじれて螺旋状にのびあがっていく、その運動性が出せるようにしたいと思っています。
粘土の時は運動性があって、如実に見えるのですが、釉薬を掛けて焼いていくうちに少しずつ弱まって、ベールに包まれちゃうところはあるのだけれど、それを意識するだけで形が変わってくるというのはありますね。
尊敬している作家が「アウトラインを見て作ってしまいがちだけれど、本当は中を意識して作ったほうがいい。作品が固く見えてしまうのは、完成をイメージしながらその枠に閉じ込めていく作業になっているから」と話していて、自分もそれはすごく意識するようにしています。果実が中から熟していくような、お皿だったら中心からだんだんと空間に溶け込んでいくような。
どこか膨らんでいるというか、呼吸感、そういう感じがいまの暮らしのなかで煩くなくて、日常の中で使えるものとしてのぎりぎりなのかな、と思ってやっているところはありますね。
インタビュー&編集/スパイラル
Spiral Online Storeでは、本展でご紹介した秋谷茂郎さんのアイテムの一部を期間限定でご紹介しています。