作品展《Tomoko Wada Exhibition ―Easy Breezy―》の開催を記念して、ガラスを中心に、金属や石、木など異なるマテリアルを組み合わせ、心地よいリズムが溢れる世界を作り出しているアーティスト和田朋子さんに、お話をうかがいました。
──roomシリーズの誕生
今回展示しているroomシリーズは、すでに大学の時には作り始めていました。
大学の卒業制作でもガラスのボックス状の作品を発表していて。
でも、その頃は1.5メートルくらいの大きな作品だったんです。ワイヤーやびよーんって伸びるおもちゃとか、ビニール袋みたいなものやシールを貼ってみたり、中に入れる素材も色々試していました。
ちっちゃい頃からインテリアへの興味があって、家に定期的に送られてくるカタログ雑誌とか、駅とかで無料で配られている間取りが載っている冊子を見ては想像をしていました。
それで、高校は水道橋にある工芸高校に通って、インテリアを勉強していました。
ここは倉俣史朗もかつて学んでいた学校で、製図を引いたり、家具を作ったりしたのですが、なんだか自分に向いてないな、って感じていて。やっぱり自分の手で、ものを作ることがしたいって思ったんです。
そう考えた時に、昔から好きだったガラスを素材にすることを思いついて。ガラスを学ぶことができる大学に進学しました。あるとき、大学の授業でボックス状のステンドグラスを作ったんです。その時は、何も考えずにボックス状にしたのですが、後になって、箱の中って触れられそうで、触れることができないのがいいな、って思ったんですよね。
その経験がきっかけで、こういう表現が面白いと感じて。それ以来ずっと飽きずに同じものを作り続けてきた、って感じです。
ガラスのボックス状の作品というのは、多分、ちっちゃい頃からのインテリアへの興味、空間を作るという感覚から生まれてきている気がします。
──身の回りにあるもの全て、作品になる可能性がある
作品に使用するさまざまな素材は、一番身近なものだと、髙橋漠とのガラスウェアブランド「TOUMEI」で制作しているコップなどを作る時に出る端材です。
綺麗だな、と思うことが多くて、そういうものを集めて作品に取り入れられないかな、っていつも考えていますね。
あとは、漠(高橋)がアルミで作品を作っている時に、一緒に金属加工工場に行って、何か端材ありますか、って聞いて貰ったり、近所のサッシ屋さんに行った時に、昔の磨りガラスの端材を貰って帰ってきたり。
普段の生活でも不用品が出た時に、作品に使えないかな、って考えますね。
身の回りにあるもの全て、作品になる可能性があるんです。
──素材選びから柔軟な気持ちでいたい
素材選びについては、今のような形になるきっかけがあって。
大学4年生で取った教授のゼミで「クイックプロジェクト」という授業があったんです。それは、身の回りの簡単に手に入る素材で、簡単な方法を用いて、どんどん立体物を作っていくというドローイングの立体版みたいなことをしたんです。制限時間を与えられて、その間に何個作れるか、みたいな。
それをゼミのみんなで批評し合うんですけれど、何でも素材になるんだなっていう実感がありました。
私は作品を作る時に、なるべく柔軟でいたくて。制約をなるべく取り払いたいと思っています。だからこそ、作品作りが楽しい、というのがあるので、素材選びから柔軟な気持ちでいたいんです。
──キャリアを重ねてきたことの変化
大学生の時は、作品を売る訳じゃないから、何でもありだし、それができるのが学生の醍醐味だと思うんです。
けれど今は、例えばプラスチックのものって、カラフルだし、かわいいから以前は使っていたんですけれど、いつか朽ちちゃうので使わないようにしています。
roomシリーズは、完成したら箱の中を触ることができないので、なるべく朽ちない素材を選ぶように心がけています。
あと、作品を売ることを考えると、大学生の時のような大きさでは買ってもらうことはできないので、もっと小さくしてみたりして。そうやって作っていくうちに、そのサイズだとちょっと物足りないな、みたいな感じも出てきて、今の大きさに最近落ち着きました。
──自分の表現を言語化してみる
私は言語化することがすごく苦手で、今までちゃんとしてこなかったんです。
これまでは、使っている素材の話はしてきたんですけど、この行為は自分にとって何か?みたいな話はしてこなくて。
roomシリーズは長く作っているけれど、もっと作品を良くするには自分の中で何を表現しているのか、ということについて掘り下げて言語化する必要があると思ったんです。
そこで、今回の展示に向けて、ステートメントとしてこの作品が自分にとっての何か、考えました。それは自分自身を深く掘り下げていく行為で、そこから出てきた言葉が「私だけの安息の場=シェルターの構築」でした。
自分が好きなものだけを選び、異質なものを共存させながら、他者に侵されることのない、シェルターを構築しているんだな、って気がつきました。私は、箱の中に自分自身の理想的な空間を映し出し、作品を通じてその無敵な部屋を表現し、実現化しているんです。
制作の時にそれを意識しているからこそ、昔の作品と表現方法は同じだけれど、作品に向き合うマインドは全然違うな、って感じます。はっきりと言語化することで、そういう意識の変化があったと思います。
会場に来てくれる人にも、自分もこの世界に入ってもいく、みたいな気持ちで見てもらえたらいいですね。なんて言うか、共感できているような感じがして嬉しいです。
取材:藤田知穂(スパイラル アシスタントキュレーター)