Find Beauty #1

　山の上の霧、回りながら落ちてくる種子、一斉に飛び立つ鳥たち。時間をかけて崩れていく角砂糖、壁に映る水の波紋、光を集める木の箱。私が美しいと感じるものやことを並べていくと“現象”という文字が浮かんで来た。現象とは、自然界や人間界に形をとって現れるもの、と辞書にある。

　日常にふと気が向いて、私は近くの川辺を散歩する。ある時、ベンチに座ってパンを食べていると、空からくるくると回りながら落ちてくる何かに心奪われた。すぐに近寄ってみると、種子だった。見上げると私の後ろには大きな冬枯れの欅がどしっと構えていた。私はその種子をそうっと家に持ち帰って、何度も落としてくるくる回し、川辺で見た景色を再生した。風に乗って遠くまで飛ぶための形、人はそこに子孫を残すため、と意味を見出す。でも、そんな意味だけに片付けられない美しい景色、美しい現象を私は忘れられない。

一方、人間界にもこの美しい現象をたくさん見つけることができる。

　ある美術家の作品のこと。筒状のガラスはオルゴールの響きに合わせてゆっくりと回る。そこに入った角砂糖はカタ、カサ、と音を立てゆっくりと崩れていく。オルゴールの音色と、角が取れていく砂糖の音が共鳴した時、自然界と人間界が繋がったような錯覚に陥った。人が仕掛けた現象がまるで自然現象のように、そこにある空気に溶け込んでいく。そこには何の理由もない。唯々、オルゴールと角砂糖が共鳴している時間が流れているだけのこと。

　自然には叶わない、というよりは自分も自然の一部だということを年を重ねるごとに感じているし、もっともっと自然の一部になっていきたいという願望もある。美味しい果実に出会った時には、お菓子を作ることの意味を立ち止まって考えてしまう。それでもお菓子を作り続けていられるのは、人が自然と共鳴し合い、手を動かし続けることの愛おしさを信じているから。それが私にとって生きることだと。

“現象”という言葉がしっくり来たのはこういうことかもしれない。形そのものではなく、形の奥にある捉えることのできない何かに心が動いている。心が動いた時「どうして、どうして、」と私は子供の様に理由を見つけ出そうとする。でも、本当に美しいものには理由なんてないことを知っているから、本当の美しさと出会うために、そこにひとつの理由もないことを知ろうとするのだ。

人間も宇宙の中に漂う小さな現象にすぎない。そう思うと、ちっぽけな悩みは空に消えて、全てが美しく見えてくる。



御菓子丸　Okashimaru
杉山早陽子　Sayoko Sugiyama　

1983 年三重県生まれ。食べたら無くなる当たり前のことに着眼、表現方法としての和菓子に可能性を感じ、京都にて和菓子を学ぶ。鑑賞から食べるまでの行為を一つの体験として捉え、記憶に残る一瞬を和菓子に込めて制作する。10年間「日菓」としての活動を経て「 御菓子丸 」を主宰しながら和菓子を制作、展示、販売している。

www.okashimaru.com

　青山の学校に通っていた学生時代、授業の前後にスパイラルガーデンでの展示やスパイラルマーケット、（と、以前1Fにあった）レコードショプに寄ることは、私の心からの愉しみでした。
　アロマやコスメ、食器など雑貨、音楽やアートなどのカルチャー…。「ここに行けば何かに出会える」場所として、決して言い過ぎではないぐらい、スパイラルには沢山のものを教えてもらったと思います。美しさを底上げするのは、見た目を整えるだけでなく、内面の充実が欠かせない。今や言うまでもないことですが、そういう意味でスパイラルは過去も現在も、すべてのフロアに〈美〉が詰まっている建物なのだと思います。
　そんなスパイラルのための選曲を考えたとき、私は〈青山という街へ赴く時の、仕度のシーン〉を思いました。青山はほとんどの人が、何かを成したり、なにかに出会うためにほかの街から訪れる場所。女性なら、この街ですることや会う人のことを考えて服を選んだり、メイクをしたり、慌てて「少し遅れます」とメッセージを送り合ったり…。そんなシーンにかかるBGMは研ぎ澄まされていて、静かだったり、少しストレンジでも面白い。
　スパイラルはいつまでも、そんな青山の“懐の広さ”のランドマークであってほしい、と私は思います。そして、大好きだったレコードショップが2019年にあったら、こんな曲をおすすめしてくれるだろうな…　そんなことを考えて選曲しました。

　あなたにとっての〈美〉は、きょう、スパイラルの何階で見つかるでしょうか？
　どうぞ、良い1日を！

立石 郁　Kaoru Tateishi
編集ライター／放送作家／キュレーター

雑誌やラジオ局で美容・ライフスタイルを中心に執筆・選曲も行う。並行してアート展の広報やアーティストのPR・企画などを手がける。