石黒昭の個展「QUARRY」を開催致します。
前半のギャラリーに於いては「GRAVITATIONAL FIELD」の最大作品6点組を中心とし、その驚異的な筆致を展覧します。
後半のアトリウムに於いては、ほぼ新作の「Marblesque」シリーズおよそ40点、合計約1000号を展示します。
二つの作品展開を明確に対比させる展示は、石黒の持つ「場」の姿を鑑賞者の思念にあぶり出し、切り出されるかのごとく鑑賞されることを促すものです。
現在最も注目されているアーティストの一人である石黒昭の実力が広い会場を満たす展覧会「QUARRY」、どうぞご期待ください。
石黒 昭 “QUARRY”
会期:2022.10.5(wed)ー 10.16(sun) <会期中無休、全12⽇間>
開館時間: 11:00-20:00
(閉館時間は変更される可能性があります。当⽇の営業時間は、スパイラル営業時間変更のお知らせをご確認ください)
⼊場料:無料
会場:スパイラルガーデン(東京都港区南⻘⼭5-6-23 スパイラル1F)
主催/企画制作:レントゲン藝術研究所準備室
お問合せ先
レントゲン藝術研究所準備室
・メール:roentgen@gol.com
・電話 :090-1840-0063
<ご来場のお客様へのお願い>
– 発熱や⾵邪症状(咳・のどの痛み)などがある⽅、ご体調のすぐれない⽅はご来場をご遠慮いただけますようお願いいたします。
– ご来場時はマスクの着⽤、⼿指の消毒をお願いいたします。
– ご来場時に、⾮接触の体温計にて体温測定をさせていただく場合がございます。
– 展⽰スペース混雑時には、⼊場をお待ちいただく可能性がございます。
エキシビション・ダイアローグ
中野信子 [脳科学者] × 石黒昭 [本展作家]
・日時:2022.10.7(金) 18:00-
・無料
・会場:スパイラルガーデン(東京都港区南⻘⼭5-6-23 スパイラル1F)
・事前申込制
御氏名と「エキシビション・ダイアローグ参加希望」とお書き添えの上、roentgen@gol.comまでEメールをお送りください。
石黒昭と「QUARRY」について
レントゲン藝術研究所準備室は、来たる10月5日から10日までの会期にて、石黒昭の個展「QUARRY」を、青山・スパイラルガーデンにて開催致します。
1974年に横浜に生まれた石黒は内装建築の一技法であるデコラティブペイントを生業としながら、その技術を投影した「GRAVITATIONAL FIELD」即ち重力場と名付けられたシリーズ作品を発表、それらは大理石、御影石、ラピスラズリと言った、所謂貴石の驚異的な模写によって構成されています。
写実的な表層を持つこれらの作品ですが、実は全く同じ石が存在するというわけではありません。長い時間をかけて習得した高度な技術によって創り出された作家オリジナルのそれらを石黒は「重力の風景画」と呼んでいます。同時にそれらは石というものの在り方から見れば「時間の風景画」と呼ぶこともできるでしょう
重力と時間という、見ることのできない概念を視覚化するとなれば、それは必然抽象画にならざるを得ないでしょう。その一方風景画という写実作業によって制作される作品が抽象化されるには、例えばカンディンスキーのように作家個人の時間というものを必要とするのは想像に難くありません。
しかし石黒は職人的な技術の体得、さらにその磨き上げによって重力と時間を象徴する石の表情を自在に作り上げることに成功しています。こうして重力と時間という抽象概念は、石黒の手によって絵画化された石の表面という象徴を得、精緻な風景画という表情を得ることに成功したとは言うことができるでしよう。
専門的な美術教育は受けていないながら、充分な言説の構築と精緻な作業、強固な集中力によってグループ展、個展をコンスタントにこなしてきた石黒は、近年その体得された技術を抽象画に投影した「Marblesque(マーブレスク)」と呼ばれるシリーズにて、非常な注目を浴びることとなりました。
作家のステートメント(後述)にあるように現在地質学界を中心に大きな話題になっている「人新世」をテーマとしたこの鮮やかなペインティングのシリーズは、その客観的、科学的な言説と、前述の「GRAVITATIONAL FIELD」の制作によって体得された筆遣い、そして優れた色彩感覚によって観客を熱狂させています。
今回開催される「QUARRY」即ち「石切場」はこの「GRAVITATIONAL FIELD」と「Marblesque」を二本立てで系統的に展示、石黒昭の世界観を存分にご覧頂く展覧会です。
石黒の作品の在り様は泡のように無から現れるというよりも、完成しているその技術と、地質学を基とした概念、そしてその先を妄想する思念の融合による巨大な「場」の断面であるように考えます。それは場所や状況によって変化する物質、かかってくる様々な負荷によって作られた無限のバリエーションをもつその組成からの無造作な取り出しが偶然のように生み出す美しさ、が故の揺るぎない整合性こそが、作品の強度を支えているということができるでしょう。
こうした作品の在り様を忠実に伝達するべき方法は、その「場」を様々な方角からシミュレートすることであろうという考えから今回の「石切場」というコンセプトが生まれました。スパイラルガーデンを一つの巨大な採掘ピットと見做し、展示された作品群はあたかもその場から掘り出される瞬間の様に展示されます。
前半のギャラリーに於いては「GRAVITATIONAL FIELD」の最大作品6点組を中心とし、その驚異的な筆致を展覧します。
後半のアトリウムに於いては、ほぼ新作の「Marblesque」シリーズおよそ40点、合計約1000号を展示します。
二つの作品展開を明確に対比させる展示は、石黒の持つ「場」の姿を鑑賞者の思念あぶり出し、切り出されるかのごとく鑑賞されることを促すものです。
現在最も注目されているアーティストの一人である石黒昭の実力が広い会場を満たす展覧会「QUARRY」、どうぞご期待ください。
本展キュレーター 池内務(レントゲン藝術研究所準備室)
マーブレスクによる人新世の考察
“ 私はマーブルを描く時にいつも同じ風景を見ている。”
私はひざ丈ぐらいまで草が伸びた小高い丘のゆるい斜面に、眼下からせり上がってくる風を感じながら立っている。露が葉末を伝って地表に染み込み、地中を抜けて地下水となるまでに描く軌跡を想像する。その軌跡から重力を感じ取り、マーブルを遠近法の無い風景画と捉え、自然の造形美を見つけて、「自然の法則を抽出した線」を写し取ってきた。
地質学において地層の出来た順序では現代は完新世の時代に当て嵌まるが、それが終わり新たな地質年代に突入しているという学説が検討されている。新たな地質年代の名を「人新世(Anthropocene)」といい、オゾンホール研究でノーベル賞を受賞した大気化学者パウル・クルッツルン(Paul Jozef Crutzen)によって2000年に提唱され、様々な議論がなされているが、明確な定義付けがされていない概念である。
人類が地球上に生み出してきたもの。そしてこれからも蓄積し続け、自然には還らないデブリを「テクノスフィア(technosphere)」と定義し、人類が地球に多大な変化をもたらしたことで、地質学的に新たな時代「人新世」が始まったという考え方である。
人新世の始まりは20世紀半ばが有力とされていて、現代を生きる私たちが社会の一員として生きてきた時間と重なる。爆発的増加と多様化したテクノスフィアの総質量は30兆トンとも言われ、その多くは土に還ることはない。その意味でテクノスフィアは、前時代との区切りを明確に示す新たな尺度として、化石と同様に機能すると言えるかもしれない。今後も増加する文明化石(technofossils)は地層に恒久的な痕跡として、遠い未来にも残り続けるだろう。
マーブレスクにみる絡み合う色彩の主張は、膨大な質量のテクノスフィアが持つ熱量と、変成作用による未来の地層をイメージさせる。私の作品において重力場(GRAVITATIONAL FIELD)を完新世やそれ以前の全ての地質学的エポックの地層と捉えると、テクノスフィアの生成に生じる熱による変成作用を描いたマーブレスク(Marblesque)は遠い未来の地質学者を魅了するであろう人新世の地層であり、大理石絵画(Painting of Marble)はそれらを繫ぐ移行期の地層を可視化した絵画表現と言えるのではないだろうか。
石黒昭