生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第4回は、室内道具を制作している枯白(こく)のお2人にお話を伺いました。
── 夢の家を想像して
ユニットの作家はどちらかが制作で、もうひとりがサポートという体制が多くあると思うのですが、夫婦で活動している僕たちの場合は2人とも独立して制作をしていて、事務的な仕事もそれぞれで同じくらいの比重で分担しています。木工と鉄工でも分かれていなくて、2人とも木工するし、鉄工するんですね。僕たちは個々が成り立っていて、それが交わった部分が「枯白(こく)」というイメージです。
枯白のものは全て自分たちでも使っています。私たちはハンガーやカッティングボードから家具まで手掛けているので、活動の幅が広いんです。なんでハンガー作るの?って訊かれることもありますね。見方によっては統一感が無いように感じることもあるかもしれないけれど、僕たちは、部屋で使うものをトータルで作りたい──椅子も照明も机もあるのはそういうことで、「室内道具」と呼んでいることにもそういう気持ちがあります。僕たちは家を建てたい思いがあるけどまだ建てていないので、夢が広がっている段階の作品たちのような。家ができたらこんなの置いてみたいな、って。
── 枯白らしさ
枯白は、木と鉄を使う事からはじまったのですが、最近は真鍮やガラス、革も使っていて──それは当初の「らしさ」からは逸脱していることではありますが、小さなことをはみ出ていかないと、どんどん狭い方向にいきそうで。いわゆる「らしさ」との葛藤はあるけど、そういった逸脱の中で、どの革を選ぶか、どの素材を選ぶか、というところに自分たちの美意識が入れば、枯白らしさは崩れないのかなと思っています。
木と鉄だけに素材を限定している訳ではないけれど、ある部分では木と鉄の作家って思われていることもあって。木だけでレリーフをつくってみたり、抗ってみたこともありましたけどね。でも、意外と自分たちが気にしているだけで、見てくれるかたは許容範囲ってこともあって。自分たちで勝手にらしさを作ってしまっていたり。ひとつのものを突き詰めて作ることも格好いいと思うのですけれど、私たちはやってみよう精神の方が強いというか、これをやったらはみ出るかも、というものでもまず手元にある材料を使って形にしてみてから、どうかな?って。あったら面白いと思えるものをつくり続けたいですね。
── 選択の中で宿る自分たちの美意識
例えば、同じ木材が30〜40個並んでいたとして、そこから自分の好きなものをいくつか選ぶ事ができるという感覚──似ているけど、似ていないっていう。そういう感覚で日々素材を見たり、製作をしていると思っています。自分たちで作ったものでも、これはいい、これは良くない、ってあるんですよね。説明できないんですけど、そのものを見たら分かるんですよね。これは緊張感がないな、とか。その線引きの感覚ってなんなんだろうな、って不思議です。
初めは何が違うんだろう?って思うんですけど、2人で考えているうちに理由が見えてくる。直感的に何が違うのか分からないときがあって。そういうときはお互いに相談するんです。どっちがいいと思う?って議論することもあって。仕上がってみて、やっぱりこっちがよかったね、みたいな。でも、2人で活動しているとそういう感覚が完全に一致することだけではないので、だから2人がOKできた作品というのが「枯白」になるのかな。たまにそれだけじゃつまらなくなって、それぞれが弾け跳んだ作品をつくることもありますけれどね。
── それぞれの時間が育む変化
素材選びの段階では、今の状態を美しいと感じて採用しているものと、カッティングボードとかドリップスタンドとか、使うことによる経年変化を見越して選んでいるものがありますね。それぞれの素材で異なる変化があるので、木材でも色が濃くなるものもあれば、白っぽくなっていくものもあります。私たちは枯白の作品を作業場で使っているので汚れながら経年変化をするけれど、みなさんは家で使っているので、綺麗な状態で変化をしていくんですね。綺麗に使うとこういう色合いで変化するんだ、知らなかったな、ってこともよくあります。
僕は大学時代にドイツに一年留学をしていて、蚤の市によく行っていたのですが、そこでハンガーが出ているんですよね。ボロボロだったりツヤツヤだったり、それを見てハンガーが好きになって──ハンガーって壊れない限りずっとあるし、ずっと生活の中で触るものですよね。そういう物って良いなと思いつくり始めました。私もドイツの道具が好きで、壊れたら直してまた使うという感覚も素敵だなと思っています。枯白の作品は自分たちによって一旦完成するけれど、その後、使う人それぞれの時間と共につくられていくと思っています。例えば、コーヒーのドリップスタンドは、珈琲染を少しずつしている感じですね。淹れる人のドリップの仕方や使い方によって、コーヒーの跳ね方も違うし。使う人によって異なった変化が見られるのも楽しくて大好きですね。
インタビュー・編集/スパイラル