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生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第11回は、硝子による造形と器を制作している境田亜希さんにお話を伺いました。
──ものづくりへの挑戦
実家が秋田で食器屋を営んでいて、その影響もあったのか、昔からものづくりに興味がありました。社会人をしていたのですけれど、ずっと手に職を付けたいという気持がくすぶっていて、ある時、最後のチャンスかも?と会社を辞め、学校に入りました。卒業してからはガラス制作が盛んな富山で作家のアシスタントをし、その後、富山ガラス工房で働きました。昨年、出産を機に秋田に移り住んでからは個人で活動をしています。私はスタートが遅かったので、ガラスを始めて今年で12年目になります。
いまは、主に子供が保育園にいる間に制作をしています。制作と子育ての両立は初めのうちはずいぶん苦労しました。でも、ガラスがあるお陰で日常生活とのバランスが取れている部分もあります。いまは限られた時間で制作をしなくてはいけないので、より集中するようにもなりました。例えば、これまでは10個を吹いて7個できたら良い、というところから10個中10個できないと!って。少しずつ成功率も高くなってきた気がします。
──そのもののベストなかたちを捉える
主に、吹きガラスの技法で制作をしているので、型取りのように全て同じサイズを作ることが難しいんです。私自身、あまり器のサイズにこだわってもいなくて。使う人を意識していない訳ではないのですが、──以前はたくさんの人に気に入って欲しくて、使いやすい透明の器や、サイズも4寸が使いやすいって聞いたらその通りつくったりして。でも、だんだんと自分の作品が良いと思えなくなってしまって。
理想とする寸法に近づけるための無理をすると、形が鈍臭くなるんですよね。縁が焼き戻って厚みが出たり。タイミングがずれると『旬』が過ぎるのかな?ガラスに力が無くなるんです。今は、サイズを意識せずに「そのもののベストな美しい形を捉える」という考え方に切り替えています。
——美しいラインを決める作業
ガラス制作は線と線を結ぶ作業なんです。線(底辺)がここにあったら、フィニッシュの線(縁)をどこに作るか?この高さで底辺との線を結んだら小鉢、ここならグラス、と、どんなサイズでもその考えが基本にあります。線と線を結ぶなかで、自分の気持ちが良い、美しい、と感じるところで止めるようにしています。
あと、作業のなかで生まれる偶然性も大事にしています。途中で失敗するって分かっても止めずに最後まで作ってみるんです。いつもと違う広げ方、火の入れ方のテストにもなるので、まずはやってみます。どうしたらこうなるか?という経験につながることは大事だと思います。そういう過程で失敗してしまったものも、徐冷の際にヒビが入ってしまったものも、溶かし直してアクセサリーにしたり──。ほんの少し、その時の『器』の色が入っていたりして面白いんです。
──凛としているものがはらむ空気感
同じようにつくっていても、佇まいが明らかに違うものが出てきて──些細なことだと思うんですけれど、何かが違うんです。どうしたらもっと凛とした空気感を出せるのかな?と常に考えています。
制作するとき、私は凛とした美しいものをイメージします。お寺や陶器の作品が持つ、静かで凛とした雰囲気が特に好きで意識して観るように心がけています。特に人がつくったものからそういう佇まいを感じ取ることが多いですね。
作品の色も、そういうなかでイメージが浮かんで、最近は赤のもつ力強さが良いな、と思い赤の器を作りました。自分の色の好みも変わるので、今後も色のバリエーションを増やしていきたいと思っています。
ガラス制作はスポーツのようにアクロバティックな動きが多いんです。私は制作する時の動きが速いと言われるのですが、速くても美しい動作であることを意識しています。ガラス作家の制作の動作を見ると、作品が見えるんです。不思議ですが、制作するときの所作が作品の佇まいに繋がっているんですよね。そういうことって、その場で意識してできることではなくて、普段何気なくしていることこそが大事だと思っています。
インタビュー&編集/スパイラル