生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第16回は動植物を豊かな色彩で描き、テキスタイルやプロダクトとしても展開している安原ちひろさんにお話を伺いました。
──生活とアートの境界線ぐらいに立ちたい
いまのように、フリーランスで活動をする前、美術大学を卒業してから、ものづくりをしている会社での仕事を3社くらい経験しました。この頃の経験は会社員としてというより、人としていい経験だったと思っています。美術大学の学生の頃は「自由に自分の個性を出す」ことが求められていましたが、電話での対応とか、日本語の書き方とか、そういうことが分からなかったので、きちんと教えてもらえる環境があったことは良かったと思っています。
いま私は、生活にちょっとだけアートを──生活とアートの境界線くらいに立ちたいって思っているんです。購入してくださるお客さまやプロダクトにしてくださるメーカーやクライアントとのやりとりも大切なので、そういう基本的なマナーを会社員の時に勉強することができたので良かったと思っています。
──経験を重ねたことでできる仕事がある
やったことが無い仕事や、新しい挑戦になるような仕事に出会ったときは、積極的に取り組むことにしています。一人の活動では実現できない仕事の例として見ていただける貴重な機会なので。活動を初めたころは仕事を依頼されることもなかったので、自分から発信することしかできなかったんですね。徐々に依頼をいただくことで、仕事の基準ができてきて、それまでの知識や過去の経験が蓄積されているので、自分からも提案や交渉ができるようになったのは、色々な仕事をさせていただいたお陰だと思います。
駆け出しの頃は、時間と体力をつかって乗り越えられるなら、って思ってやっていたけれど、いまは一人なので限界もあり、時間をどう有効に使っていくか、と考えるようになりましたね。制作だけではなく、生活自体もそういう感じになってきています。知らないうちに経験は身についているんだと思いますね。若いときの体力自慢とは違う、経験を重ねたことでできる仕事があるのだと思っています。
──作品を記録に残しておくための方法
ずっと発表をしているハンカチは、原画を販売する私にとって、作品を記録に残しておくための方法でもあるんです。作品が売れてもハンカチだけはずっと作り続けられるので。だから、あまり原画に執着せず手放すことができるのかもしれません。
ハンカチの製作は日本の工場で行なっているのですが、難しくて毎回何かが起こります。生地も何回も変えていて──私はシルクの生地を使っているのですが、使う人が減ってしまうと生地自体が廃番になってしまうんです。布の値段も高騰してきていて、ものづくりの現場が変わってきている感じはしています。
──ある日「筆がしっくりきた」と思えた
最近は絵を描くことにどんどん時間がかかるようになってきているんです。ある日「筆がしっくりきた」と思えたことがありました。すごく細かく描けた、と。これまで他の技法を使っていた部分が、筆で描けるようになったんですね。でも、全てが手描きになったので、時間がとてもかかるんです。
それに、以前はモチーフの花とかを一度観て、その後はもう観ない──自分の記憶の中からエッセンスだけを引き出して描いていたんですけれど、最近はモチーフをかなり調べますね、よく観察しますし。モチーフは主には色の面として観ています、(輪郭)線じゃなくて。それをクロッキーに描いたり、そこから少し崩したりして作品にしていきます。
以前より描き重ねているので、画面の密度が濃くなっていると思います。描いている途中、絵の具の色が安っぽく見えるときがあるんです。それは駄目な時で、もっと描かないといけないんです。描き進めていくと色が生っぽくない、しっくりくる瞬間が訪れます。
毎日描いているからといって、技術が身につくのでは無いんですよね。その時、描きたかった柄だったから、それに合わせた技法があって──いま、自分が身につけたい、飾りたいものって、その時とは異なっていて、それにはこれまでとは違う技術が必要になるんですよね。
インタビュー&編集/スパイラル
「+S」Spiral Market丸の内にて、4月22日よりイベントを開催いたします。
Spiral Online Storeでは、安原ちひろさんのアイテムのをお取り扱いしています。