生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第21回は、奥行きのある深い色合いの釉薬が美しい陶器を制作している
平野日奈子さん。
──多治見での活動
美術大学の短大を卒業してから制作を続けているので、活動はもう20年以上ですね。大学卒業後に陶芸教室のアルバイトをしながら制作をしていたのですが、もっと専門的にやってみたいと思い、多治見の市が運営している研究所で学びました。ここには面白いものを作っている作家が多くて、それが楽しくてそのまま居着いてしまったという感じですね。周りにも土とか陶芸の色々なことに詳しい方が沢山いらっしゃるので、自分の制作でちょっとだけ試してみたい時に情報を得ることができたり、少量の材料を手に入れることができたりするのでいいですね。
食べることが好きだったので、器を作ることは自然な流れでした。実際に自分で使ってみながら少しずつ変えていったりしています。アクセサリーも作っているのですが、きれいな色でも器に使うと食べ物の色が染み込んでシミのようになってしまう釉薬も使うことができたり、形も自由な気持ちで作ることができるのでこちらも楽しいですね。
──釉薬との対話
釉薬は自分で調合をしているのですが、様々な難しさがあり濃さや、器の厚さによっても施釉の方法を微調整しながら行なっています。窯の温度によって釉薬が流れすぎてしまったり、逆に溶けなかったり、本当にちょっとしたことで変わってしまうんです。異なる種類の釉薬を二重がけすることもあるのですが、重ねた2つの釉薬の引っ張る(縮む)強さが異なったりするので難しいですね。
それと、釉薬の色によって土も替えます。土の粒子が細かいものと荒いもので仕上がりが変わるんです。
私は釉薬の僅かな違いを眺めているのがとても好きで、微妙にきらきらしているとか不思議なマットな質感とか、そういうバリエーション違いのようなものを無意識にですが作っていますね。
──自然の美しさ
制作は時間を決めてできればいいのですが、冬は夜型で夏は朝型でのスケジュールになることが多いです。
私の工房は、冬は水道の水が凍ってしまうくらいかなり冷え込むので、太陽で少し室内が温まった時間から始めないと大変で。冬の粘土はものすごく冷えているので、冷たすぎて手が痒くなっちゃう程なんです。
だから、春が来るのは嬉しいですね。
小さいものの細部を見るのが好きで、じーっと見てしまいます。夏の日に網戸に蛾が止まっていたのですが、その姿がとってもきれいで、ずっとスケッチしていました。友達にはこわいって言われたんですけれど.......。それと山登りをしたり、ちょっとした散歩でも時間があったら色々なものを見るようにしています。
アトリエには好きな写真を貼っているのですが、木の緑や水の様子とかが多くて、ふと考えると自分の作品の色と似ていたりして、自分はこういう色が好きなんだなって気がつくことがありますね。
──暮らしのなかで見えてくること。
私の器が生活の中でどのように使われているのか知りたい気持ちがあります。お店で初めて見た印象と、実際に暮らしの中で使う時間から見えてくる、初めの印象とは異なるものがあるといいと思っています。
器は割れない限りずっとあるので、長い時間をかけて使ってもらうということを意識して制作していますね。見た目のすっとした格好の良さもいいと思いますが、つい選んでしまうもの、いつも食器棚の一番上にあるような使いやすいお皿を作ることができればと考えています。
今は他の人と一緒になって空間を作ることに興味があります。私は自分の暮らしている中でこんなものがあったらいいなと出てくるものが多いのですが新しい視点が入ってまた違ったものに広がっていったら、面白いのではないかと思っているんです。
Interview: SPIRAL