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生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第9回は、オリジナルのテキスタイルをデザインし、日傘・雨傘を一本ずつ手作りしているイイダ傘店の飯田純久さんにお話を伺いました。
──ぱっと布が開く面白さ
傘店をやろう、ブランドを立ち上げようというよりも立ち上がった、という感じです。
大学でテキスタイルの制作をしていて、みんな浴衣にしたりタペストリーにして飾ったりして、僕も同じ様にしていたんですけれど、あるとき、閉じて見えない布がぱっと開く様子が形として面白いな、って思い傘をつくってみたのがはじまりです。
はじめたときは、テキスタイルデザインと傘が結びついていなくて、こんなテキスタイルだったら面白い傘になりそうだな、みたいな気持ちで。それで、見たことがない感じの傘ができあがったら、見たことがないってことは、世の中にそういう傘がないってことかな?と思ったんです。
テキスタイルからスタートした傘づくりは、オリジナルのイラストを描くところから始まって、それを工場で生産し、傘の組み立てを一本一本自分たちのアトリエで行なっています。異分野の作家仲間とのコラボレーションも時々ありますね。例えば、木工作家の友人がつくってくれた傘のハンドルは、お客さまから意外な感想をいただいたりして面白いですね。僕だったら、使いやすさや持ちやすさを重視して、決して作らなかった形になるのはコラボレーションならではで楽しいです。
──自然のことを仕事にしている
僕はあまり傘をささないので、割と客観的に傘というものを見ていると思います。道を歩いている人の傘を見ながら、こんなだといいかな、みたいに。
最近はイイダ傘店の商品をファッションの括りで見てもらえる事が増えたのですが、鞄や帽子や靴とかって、おしゃれなもの、嗜好品だけれど、世の中で傘は実用品のくくりなんですよね。ファッションアイテムとして傘を探している人もいるけれど、そもそもその様に考えていないことの方が多いですよね。僕はイイダ傘店を手作りの作家の傘、というのもそうですが、実用品の傘として楽しく使ってもらえるような提案をしています。
「雨の日に出かけるのが楽しくなった」「雨音が綺麗」などと言っていただくのを聞くと、そういうことがあるんだ、って発見になります。自分の仕事にどんな意味があるんだろう?という疑問は、きっとみんなあると思うけど、そういった小さな喜びやみなさんの暮らしの一部になっていることがあると思うと嬉しく思います。
普遍的なもの──雨が降る、晴れる、という自然現象に関わる仕事が出来ているという事は僕にとっては楽しいな、って思いますね。
──恥ずかしくない仕事をしたい
デザインをしたものを受けてくれる人がいないと成立しないのが「ものづくり」の仕事なので、僕のようなデザイナーはその上で成り立っている仕事ですね。
どの世界もそうだと思うのですけれど──この前も、折りたたみの傘のパーツの工場が廃業するお知らせをもらいました。そういう現実に直面すると、そのパーツを作るために自分ができることはなくて、何にもかえがたい一人の力があるんですね。これは一つの例えですが、そういう状況の時に海外の安いパーツ、楽な技術に頼ってしまったら、本当にその技術は廃れてしまうし、自分としては恥ずかしくない仕事、材料を選んでやっていきたいと思っています。世界を変えよう、という大きな話では無いですが、諦めたらそれまでというか──そういう気持ちの人が増えたら少しずつ状況は変わると思うし、多少でも続いていく技術や産業があれば、と思いますね。
イイダ傘店の傘を使ってくれている人も、無意識かもしれないけれど、こういうものづくりの背景についても感じて選んでくれているのだと思います。最初は「かわいい」「いいな」と思って手にとっていたとしても、きっと、ものづくりの背景についても少し意識を向けてくれている。展示会などに来てくれている人はきっと考えてくれているのだと思います。それには応えたいし、その間で自分がどうやっていけるかな、といつも考えています。
インタビュー&編集/スパイラル