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Portrait in hand#14

さまざまな分野で活躍する女性たちの手。
その表情や仕草から伝わるそれぞれのライフストーリー

題字はゲストの手筆によるものです。

社会をポジティブに、平和へ導く仕掛けづくり

クリエイティブディレクター 栗栖良依

栗栖良依
Photo: 田尾沙織

 人形劇や展覧会に行くことが大好きで、小さいころは椅子とか学習机の下とか区切られた小空間を見つけては、そこを舞台に独自の世界をつくって遊んでいました。年に3回も周囲を巻き込んで出し物を行なう学校生活を送っていたので、将来は舞台演出や美術を手段に世界の平和活動に貢献したいと思っていました。そんな中、リレハンメル冬季五輪の開会式をテレビで観て、それはまさに平和の祭典であり、市民参加型の壮大なセレモニーであり、私がやりたいことはこれだ!と確信しました。それからは「五輪の開会式を演出する」という夢に向かって、展覧会や興行、そして長野冬季五輪など、とにかくたくさんのイベントに携わり経験を重ねました。そして、海外から日本を見ようとイタリアへ——。

 実は私、日本にいる間は、日本の常識や評価軸には収まらなかったのか、自分の創作活動が全く評価されなかったんです。ところが一転、イタリアで様々な背景を背負った多国籍の人々と接していく中で、私の活動がすごく評価され、自分がやってきたことが間違っていなかったという自信になりました。海外に出ていなければ、日本で劣等感を持ったまま同調圧力に潰されていたかもしれません。

 それまで1分1秒たりとも無駄にせず夢に向かって突き進んできましたが、2010年に病気を患い、先がわからない、叶うかもわからない夢のために頑張るよりも今この瞬間を楽しく生きようと考え方が変わりました。そして、病気によって脚が少し不自由になって、障害者になって、違って当たり前、ということを受け入れることができて、心から自由になれたんです。 障害を抱えながら社会復帰を考えていた矢先、「横浜ランデヴー プロジェクト」(*1)に関わることになり、ものづくり中心の活動から徐々に枠が広がっていき、2014年には「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」(*2)を開催、アートに大きく舵を切ることになりました。個性豊かな様々な人たちと一緒に作品をつくり上げていく、そんな活動が評価され、「東京2020開会式・閉会式4式典総合プランニングチーム」のメンバーに選出していただき、今は当初の夢に向かって奮闘しています。

 演劇も美術も、自ら会場に足を運ぶ人だけにわかる、というものには興味がありません。アートって、暮らしや人生を豊かにするものだと思うので、その素晴らしさを自ら見せに行きたい。例えば、ひっそりアートを忍ばせて、それを見た人が、あれってアートだったんだ!と、あとになって気づく仕掛けをつくることが好きなんです。アートに興味がない人がそれを見て少し幸せになってくれたり、私のつくる作品によってハッピーな気持ちになって、笑顔になって、周りの人に優しい気持ちで接することができるようになっていく。そういう連鎖が社会をポジティブにして、平和につながっていくと思っています。

*1:分野を超えた人々の出会いから生まれるものづくりのプラットホーム「ランデヴー プロジェクト」の一環として、横浜の「象の鼻テラス」を拠点に、横浜市の障害者施設と一緒に活動していたプロジェクト。現在、栗栖さんがクリエイティブディレクターを務める「SLOW LABEL」の前身であり、スパイラルが運営を行なっていた。

*2:3年に一度開催する“障害者”と“多様な分野のプロフェッショナル”による現代アートの国際展。2014年と2016年に続き、2020年は11月12日~20日に本会期を迎える。

インタビュー・文 編集部

栗栖良依(くりす・よしえ)
1977年生まれ、東京都出身。パラクリエーティブプロデューサー、ディレクター。横浜市のNPO法人スローレーベル代表。2010年に骨肉腫を患い、右下肢機能全廃となったことをきっかけに障害福祉の世界と出合う。2014年からヨコハマ・パラトリエンナーレ総合ディレクター。東京2020開会式・閉会式4式典総合プランニングチームメンバー。

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