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【開催レポート】 Rights of Dream -アーティストはどんな夢を見るか?- Vol.01

栗栖良依


スパイラル クリエイティブ・ミーティング
Rights of Dream -アーティストはどんな夢を見るか?- vol.01

日程:2024年2月22日(木)16:00〜17:30
会場:Spiral Room + オンライン
ゲスト:栗栖良依(アートプロデューサー/認定NPO法人スローレーベル創設者・芸術監督)

栗栖良依
既成概念に囚われない自由な発想で、異なる文化の人やコミュニティをつなげ、対話や協働のプロセスで新しい価値を生み出すプロジェクト型の作品をつくる。東京2020パラリンピック開会式ステージアドバイザー。SLOW LABEL/認定NPO法人スローレーベル創設者・芸術監督。TBS「ひるおび」木曜コメンテーター。

課題解決ではなく「夢みること」からはじめよう

社会の課題、組織の課題、まちの課題。
今、さまざまな「課題解決」が事業の起点となっていますが、スパイラルでは、課題解決ではなく「夢みること」から新たな創造をうみだすことをめざして、「Rights of Dream-アーティストはどんな夢をみるか?-」という企画を立ち上げました。ここでは、さまざまな分野で活躍するアーティストをゲストに招き、彼らの語る「夢」をヒントに、これからの社会や事業のための次のアクションを考えます。

第1回のゲストは、東京2020パラリンピック開会式のステージアドバイザーもつとめた、アートプロデューサー/認定NPO法人スローレーベル創設者・芸術監督の栗栖良依さん。「オリンピック・パラリンピックの開会式をつくる」という夢を叶えるまでの軌跡と、今まさに取り組んでいる新プロジェクト「Earth ∞ Pieces」(プロジェクト特設サイト: https://ep.slowlabel.info)についてお話しいただきました。

高校時代の夢は「平和に貢献する仕事」

栗栖さんの夢のはじまりは、高校時代に見たリレハンメルオリンピックの開会式。「平和に貢献する仕事がしたい」と考えていた栗栖さんでしたが、ある時テレビから流れてきた、世界中の多様な人々が集うこの平和の祭典の映像が胸に刺さり、「オリンピックの開会式の演出をすること」が目標となりました。

それ以降、長野オリンピックで選手村ボランティアを経験し、大学でアートマネジメントを学び、イタリア留学も経験。「大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ」などで自身のアートプロジェクトを発表するなど、精力的に活動実績を積むものの、2010年、一度は夢を断念。右膝に悪性腫瘍ができたことがきっかけで全ての活動を休止し、1年間治療に専念することになりました。

そして無事治療を終え社会復帰するとなった時、スパイラルと横浜市が企画を進めていた、アーティストと障がいのある人々による共創プロジェクトのオファーを受けることに。その活動が、現在芸術監督をつとめる「NPO法人スローレーベル」の基盤となりました。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017「第2部〈発表〉不思議の森の第夜会」

その代表的実績が、2014〜2020年に開催された、 “障害者”と“多様な分野のプロフェッショナル”による現代アートの国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」です。この開催を通じて、障害のある人もない人も同じ舞台に立つための仕組みや、心理的環境的バリアを解決するノウハウを蓄積していきました。

そこで培った経験とノウハウが、東京2020パラリンピックでは余すことなく発揮されます。栗栖さんがステージアドバイザーとして抜擢されたほか、スローレーベルの活動を通じて出会ったパフォーマーや出演者が、そして制作に伴走してきたスタッフが舞台裏でも舞台上でも多数活躍しました。

そうして一度は諦めた夢を、パラリンピックのステージアドバイザーという形で叶えた栗栖さん。 パラリンピックから3年が経った今感じることとして、次のように語ってくれました。

「D&IやSDGsに対する意識も高まってきましたが、まだまだ舞台も社会も“障害のない人”が中心です。多様性が大事だとわかっていても、変化や解決に時間がかかることも多い。だからこそ、パラリンピックを終えた後もインクルーシブな社会を作るためのアクションを取り続けていかなきゃいけない。スローレーベルでもエンターテインメントや舞台芸術の世界にそうしたアクションを普及する活動を続けていきたいと思います」

次の夢は、あらゆる生命が響き合う参画型音楽プロジェクト「Earth ∞ Pieces」

そんな栗栖さんが2023年に新たにスタートしたプロジェクトが「Earth ∞ Pieces」です。

「Earth ∞ Pieces」は、ひとりひとりが地球を構成するかけがえの無い「Piece」となり、共に豊かな時間を紡ぎながら、ベートーヴェンの「喜びの歌(第九)」を合奏するプログラム。音楽経験の有無やプロアマの垣根もなく、自分にあった参画方法で、全ての人がフラットに“自分らしく” 共奏できる環境を提供します。

なぜ、音楽という表現を選んだのか? それは、新潟県十日町市から受けた依頼がきっかけでした。

十日町小学校・ふれあいの丘支援学校・発達支援センターおひさまの3施設から「同じ敷地内で学ぶ子どもたちが一緒に歌える愛唱歌をつくりたい」という依頼を受け、蓮沼執太さんと進行することになったとき、蓮沼さんが作ったのは、「 (((歌詞自由))) 」というパートを作り、自分で好きな歌詞をつくって歌ってもいいし、手を叩いたり音を鳴らしたりしてもいい、全ての子どもたちが、それぞれのコンディションにあわせて、自由なかたちで参加できる楽曲でした。

「ゆめのおか」作詞・作曲/蓮沼執太(スローレーベルHPより画像引用)

声も出せない、楽器も演奏できない重度障害のある人もいる中で、“音”というプリミティブな表現なら、誰もがフラットに参加できるーーそんな気づきと、「この人となら、自分の想像を超えた世界を作れるかもしれない」という予感が「Earth ∞ Pieces」誕生のきっかけとなりました。

その第1回公演(ワールドプレミア)が、3月15日、横浜・象の鼻テラスで開催されました。(※2/22時点では企画概要が栗栖さんからご紹介されました) 出演者は、“音楽のジャンル不問、楽譜が読めなくても、楽器が演奏できなくても大丈夫” という公募条件のもと、全国から集まった10〜60代の29名のプレイヤーたちです。

Earth ∞ Pieces 第1回公演 ダイジェスト映像

2024年5月9日(木)〜22日(水) 銀座Sony Park Miniで開催されるドキュメント展ではノーカット版も上映

さらに、その開催を支える企業やクリエイターを、単なる「協賛者」ではなく、共にソーシャルアクションを起こす「共創パートナー」と位置付け公募しました。
会場を彩るインスタレーション制作は、イギリスで舞台芸術のサステナビリティを研究した大島広子さん。素材提供は、横浜のNPO・森ノオトが主催する「めぐる布市」。シアターメニューは、栃木県足利市にある知的障害者支援施設こころみ学園が母体の「ココ・ファーム・ワイナリー」のワインとDEAN&DELUCAのSDGsを意識した食……など、細部に至るまでサステナビリティとアクセシビリティを感じられる仕掛けをちりばめました。

さらに、こうした背景を伝える交流会などを当日までに開催するなどして、従来の音楽会の枠組を超えた、人や地球のウェルビーイングに貢献できる、新しい文化的なエコシステムを作ることをめざしました。

minä perhonenのテキスタイルと端材を組み合わせた「Earth ∞ Pieces」公式蝶ネクタイ。 デザインは衣装デザイナーの武田久美子さん。制作は医療的ケア児を育てるお母さんと 手仕事を通じて社会とのつながりを求める人たちが手がけました。

2030年までに「誰もが自分らしく輝ける世界」を実現させる

後半は、会場参加者のみなさんも交え、栗栖さんを囲んだディスカッションが行われました。 その中で出たやりとりを一部紹介します。

――栗栖さんにとってプロジェクトとは? 夢を実現する手段じゃない?

私は実はとても飽きっぽい人間で、同じものを売り続けたり、同じことを繰り返したりするのが向かなくて……。プロジェクト型の終わりあるもの、イベントのように大きな節目あるものとして推進していくようにしています。

――アーティストとして、自分の作品を作っているという意識は?

ありますね。1個1個が作品のつもりでやっています。 1960年代には「ハプニング」や「イヴェント」といって、その場で起こる「出来事」を作品化するフルクサスのようなアーティストたちがいましたが、それと同じように、自分自身も1アーティストとして、様々な分野の表現者たちと共に市民のささやかな日常に非日常的な「出来事」を起こすぞ!というつもりで創っています。

ただ、思い描くアクションや表現のスケールが大きすぎたり、一般的なアートの評価軸からはずれていたりで、なかなか評価されないまま20年来ちゃいました(笑) 。ヨコハマ・パラトリエンナーレも、社会活動として評価していただくことが多かったです。

その点で考えると、スパイラルのアートプロデュースの皆さんーー特にスローレーベルのきっかけもくれた松田さんーーは、数少ない理解者だと思っています。松田さんの肩書も「キュレーター」ではなく「プランナー」ですしね。いわゆるアートキュレーターの枠組からはみだして、デザインやビジネスや異なる領域を横断する感覚で仕事をしているなと感じます。

――「Earth ∞ Pieces」の2030年のゴールは?

わたしの夢は「平和活動」。それを叶える手段の1つとして、オリンピックという平和の祭典もありました。
何をするにしても地球規模の大きなアクション、エンターテインメントや文化芸術業界全体のことをつい考えてしまうのは、やっぱりそれが根本にあるからだと思います。

そういう意味で「Earth ∞ Pieces」もーーどんな形かはまだわからないけれどーー地球規模で、最もインパクトのある場所で、最もインパクトのある形で2030年にプレゼンテーションをしたいと思います。

また、生きづらさや息苦しさを抱えているのはマイノリティだけでなく、マジョリティと呼ばれる側も同じ。目に見えないメンタルヘルスの問題も多い。そんな人たちも含め、誰もが自分らしく輝ける世界、全ての人をエンパワーするプロジェクトをめざしたいです。


栗栖さんの叶えた夢と、これから思い描く未来の話、いかがでしたでしょうか?

「Rights of Dream-アーティストはどんな夢をみるか?-」は、2024年4月19日(金)にVol.02の開催を予定しています。 次回のゲストは、田中未知子(現代サーカスディレクター/一般社団法人瀬戸内サーカスファクトリー代表理事)さんです。 あなたもこれからの事業や社会について、田中さんの「夢」にヒントをもらいながら一緒に考えてみませんか? 皆様のご参加をお待ちしています。


【開催レポート】
スパイラル クリエイティブ・ミーティング
Rights of Dream -アーティストはどんな夢をみるか?- Vol.02
ゲスト:田中未知子(一般社団法人瀬戸内サーカスファクトリー創立者・代表理事/現代サーカスディレクター)
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