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槇文彦 特別寄稿

35年後のスパイラル

槇文彦

スパイラルガーデン(1985年撮影) Photo:Toshiharu Kitajima

35年前スパイラルが完成した時、当時日本でも珍しいハイブリッドの機能をもつ建築であった。カフェ、レストラン、店舗、ギャラリー、ホール、会員制クラブ等がおさめられていた。しかし故塚本幸一(*1)氏の求めた文化性の高い建物という要請に対しては35年経ってもスパイラルはその薫りを失っていないと思う。35年間スパイラルの印象の核になっているいくつかの空間について少し述べてみたい。

第一になんといってもここに足を踏み入れると店舗、カフェを通してその奥に明るい天空光のギャラリーとそれにまつわる螺旋状のランプが目に入る。丁度虫が光を求めるように人々は自然にこのギャラリーに導かれる。そしてこの小空間には常に様々な展示が行われ、付近のアーティスト達もここのカフェを相談に利用したりしているという。

第二は入口と3階のホールのホワイエをつなげるエスプラナード。35年の間、内部のテナントの移り変わりは少なくなかった。しかし我々がエスプラナードと称する青山通りへのガラスの壁面添いのゆったりとした大階段室は毎時行っても変わらぬ光景をみせて呉れる。ガラスの壁面添いに我々がおいたいくつかの黒い椅子には誰かが座っている。或るものは前面の青山通りの風景をみながら何か思いにふけっている。又或るものは本を読んでいる。人間は心地よいパブリックスペースで一時を過ごすことの出来る孤独を愛するのだ。

そして5階の後方に展開する小庭園は我々がそのデザインに最も力を入れた一つである。喧騒に満ちた青山通り側の空間と全く異なってここでは静寂につつまれた小宇宙が眼の前に展開する。周縁は樹木に包まれ、まわりから断絶された貴方だけの空間がそこにある。嘗てカフェに続く後方にレストランがあったときはこの庭園で新郎新婦の小さな祝祭が行われたという。

このように誰もが一度みたら忘れることの出来ない空間群が造り出すイメージがスパイラルの核として更に何十年も続くことを約束してくれているのではないだろうか。

*1:ワコールの創業者。スパイラルは、株式会社ワコールが「文化の事業化」を目指して、1985年に開館した複合文化施設です。

エスプラナード Courtesy of Maki and Associates
5階庭園(1986年撮影) Photo:Toshiharu Kitajima

槇文彦(まき ふみひこ)
1928年、東京生まれ。建築家。1952年に東京大学工学部建築学科を卒業後、アメリカのクランブルック美術学院及びハーバード大学大学院の修士課程を修了。1965年株式会社槇総合計画事務所を設立。1993年建築家にとって最も名誉あるプリツカー賞を受賞。2011年AIAアメリカ建築家協会から贈られるゴールドメダルを受賞。ヒルサイドテラス(東京・代官山)、京都国立近代美術館(京都・岡崎)、幕張メッセ(千葉・幕張)、東京体育館(東京・千駄ヶ谷)、マサチューセッツ工科大学新メディア研究所(アメリカ・マサチューセッツ)、4 ワールドトレードセンター(アメリカ・ニューヨーク)など代表作多数。

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