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Portrait in hand#12

私の都会の小さな園

ジョアナ・ケイロス

 ジョルジ・ベン*1が歌ったように、神に護られた、豊かな自然に恵まれたトロピカルな国に暮らしています。何度も引越し、4つの異なる町に住みましたし、私の人生は旅するものとなっています。特に友人が多く、音楽的なつながりもたくさんあるリオデジャネイロ、ベロ・オリゾンチ、サンパウロでは気兼ねなく過ごすことができます。休みには、森で過ごすことが好きで、山、滝などにも行きます。ある時─この地球上で私にとっての特別な場所─サンパウロの西部にひっそりと存在する庭のある小さな園を見つけて、今はそこで暮らしています。

 サンパウロは驚くほど巨大な都市です。高層ビルがそびえ立ち、車が多く、忙しなく移動する人たちで溢れる地下鉄など、ずっとこの街には恐怖を感じていました。すべてが巨大で、未知のものが多く、空気が悪くて混乱する街─。しかし、次第に街のなかに存在する小さな地域を見つけるようになりました。サンパウロはとても広くて音楽活動に適した環境が整っているので、最初は仕事で訪れる場所でしたが、住宅街には公園があり、果実がなる木が植わっていたり、庭がある家があったり、まるで田舎町のようなのどかで魅力的なところがあり、最近この土地に引越しました。

 ヴィラ・イポジュカという地域にある私が借りている家にも庭があり、ピタンガ*2、アセロラ、ラベンダー、アロエ、かぼちゃ、さつまいも、柑橘類、パパイヤ、グアバ、ツツジ、ジャスミン、その他にも様々な植物が生い茂っています。そのほとんどが私が引越してきた際にすでにありました。そして、向かいの公園には、さらにいろいろな木があり、家の窓からスターフルーツや、アボカド、ブラックベリー、ユーカリなどが見えます。ここは、街の中心地からは少し離れていますが、栄えていて、少し歩くと商店街もあり、家賃も高くはありません。朝4時ごろからさまざまな小鳥たちがさえずり、夜には、庭に吊るしたハンモックから星空と月を眺めることもできます。この周辺にはスタジオがたくさんあり、ミュージシャンも多く住んでいます。広い世界のなかでも私にとって理想的な場所です。

 サンパウロでの暮らしは、私に平穏な日々をもたらしました。友人もたくさんでき、そして仕事も増えました。多くの美しい音楽─私の内にあるものを世界に紹介できるように、そしてより創作ができる力を吹き込んでくれました。日々創作活動にいそしみ、自身の課題へ疑問を呈し考える人たちが周りにたくさんいます。泡沫のなかにいるようですが、ようやく客観的な視点を得られ、より効率的な時間の使い方ができるようになり、内にも外にも開かれているような感覚です。様々な困難がある時代に、多くのことを求められ、扇動的な物事も存在します。すべては、この街が、この国が生きている時代に、そして私が生きている状況に関係しているのでしょう。混沌とした時代ではありますが、私の今の暮らしはとてもよくフィットしていて、ポジティブで、身になることがあるようです。

 いずれは、近くに森や川がある、空気が綺麗な本当の農園で暮らしたいと思っています。目の前に横たわる様々な地球の課題に人類が向き合い、これから訪れる新しい時代にも、このような場所が残っていることを願い、信じています。今は、巨大な都市の一角に見つけた理想の場所で、音を奏で、言葉を紡ぎ、この場所から世界に向けて、できるだけポジティブなエネルギーを発していきたいと思っています。─感謝の気持ちを忘れずに。

翻訳:宮ヶ迫ナンシー理沙
編集:スパイラル

*1 ジョルジ・ベン(Jorge Ben Jor/ジョルジ・ベンジョール)
ブラジルの国民的シンガー、ギタリストの一人。サンバにソウルやファンク、ロックを融合させたサンバホッキのスタイルを確立し、人種や年齢を問わず広く支持されている。作曲したMas Que Nada(マシュ・ケ・ナダ)は国内外でブラジルミュージックを認知させた名曲。
♪パイス・トロピカルを聴く

*2 ピタンガ (学名:Eugenia uniflora)
南米の熱帯地方原産のフトモモ科の常緑低木。ブラジル先住民族の言葉であるトゥピ語で「赤い」を意味する pi'tãg に由来。別名スリナム・チェリー、ブラジリアン・チェリーなどと呼ばれ、果実は食用に利用される。

Joana Queiroz (ジョアナ・ケイロス)
クラリネット奏者/作曲家

Itiberê Orquestra Famíliaの一員として約10年間活動、3枚のアルバムの録音に参加。Hermeto Pascoalのアルバム『Mundo Verde Esperança』の12曲の録音およびコンサートに参加するなど、キャリアを重ねる。主な活動には、管楽器によるグループ Inventos, Moacir Santosらの作品を再解釈する4人グループQuartabê, Joana Queiroz Quarteto, など。グアルーリョス器楽フェスティバルでは、最優秀演奏者として表彰され、作曲部門でも第3位を受賞。これまでにLiliana Herrero, Carlos Aguirre, Aca Seca Trio, Cecilia Pahl, Simon Gonzalezなどと共演。現在はリオデジャネイロ、ベロ・オリゾンチ、サンパウロの3都市を中心に、アルゼンチン、チリ、ポルトガル、スペイン、フランス、イタリア、アメリカなど世界規模に活動を拡げている。

New Album
Joana Queiroz
《TEMPO SEM TEMPO》

現代ブラジルの器楽シーンが誇るクラリネット奏者/作曲家ジョアナ・ケイロスの待望の新作。緑あふれるアーティスト・イン・レジデンスではじまった約2年間の実験の成果で、クラリネットや自身のボーカルとともにサンプラーやアナログシンセを駆使し、多重録音で築いた円環的、螺旋的構造の楽曲が、自然との交感の場を捉える。カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ゼー・ミゲル・ヴィズニッキのカバー等を収録。

2019年11月13日 リリース
CD ¥2,500(税別) HITP-1103
https://spiralrecords-shop.com

Joana Queiroz, Rafael Martini, Bernardo Ramos
《GESTO》

音との戯れ、しなやかな「身ぶり」が呼びだす寓話(パラーベル)の世界。 「21世紀のクルビ・ダ・エスキーナ」と称される、現代ブラジルの尖鋭的なアーティストが集う音楽サークルの中心人物、ジョアナ・ケイロス、ハファエル・マルチニ、ベルナルド・ハモスからなるスーパートリオによる、あらたなチェンバー・ポップ・サウンドの結晶。

LP ¥3,240 / CD ¥2,870 (税別)
http://spiralrecords.jp
https://spiralrecords-shop.com

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