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生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第3回は、陶の制作をしている池田優子さんにお話を伺いました。
──アイディアではじめたショウルーム
デザインの勉強をしていた留学先のサンディエゴから帰国すると、父が趣味で陶芸をはじめていたんです。古い電気窯と轆轤が実家にあって。就職活動の傍ら私も趣味として陶芸をはじめました。デザイン事務所で働くようになってからも仕事の息抜きとして轆轤をまわしていました。
独学で制作を続けていて、そのうちにカフェをやっている友人が使ってくれたり、売ってくれているうちに、自分でも手応えが出てきて、デザイン事務所を辞めました。でも、自分の作品をギャラリーに持ち込む勇気がなかったので、マンションの一室で一人で工房兼ショウルームをオープンさせたんです。ラッキーなことに人が人を呼んで、取材していただいたり、ギャラリーの方にも声を掛けてもらって、そこから作家活動ができるようになりました。出産を機にギャラリーは閉めたのですが、いま考えたらいいアイディアでしたね。
その後、頭打ちしていると感じていた釉薬について学ぶため、釉薬研究会という釉薬に関する情報交換をすることを目的にした会に1年半くらい在籍しました。ここでの経験がいまの釉薬の方法に繋がっているし、作家として活動をしてきた自分にとって勉強をし直すいい機会になりました。あと、陶芸教室にも通ったことがない自分にはメンタルの面でもかなり力になりましたね。
──暮らしと制作が同じリズムの中で流れる日々
いまは自宅の1Fに工房があるので、空間は別れていますがご飯をつくるのも作品制作も同じリズムの中で流れています。自分の器も初期に制作したものから、現在のものまで織り交ぜて日常使いをしていますし、器が好きなので、作家のものも買い求めて使っています。実際に使うことで、こういう所が良かった、ここがダメだな、って色々なヒントがうまれるんです。
これまでは使い勝手の良さを優先に考えていましたが、いまは、絵を買うような気持ちで器を買う──たとえ使い勝手が悪くても、全ての料理に使えなくても「綺麗だな、このアイテム愛せるな」というだけで買ってもらえるものをつくりたいって気持ちが強くなりました。難しいですけれど。そういう狭間をつきたいですね、用途があるような、ないような。私自身そういうものを手にした時に、作家に託されているような気がします。あと、私は作品の背景にあるコンセプトやメッセージをしっかり設定しているのですが、誰かに使ってもらうものだから、それをあまり出したらいけないなって、そこのバランスは考えていますね。
──パズルのピースを合わせるように
作品の色は、目で観た情景──海とか夕日、砂浜の様子などを記憶に貯めておいて、あとで自分のフィルターを通してイメージとして出す感じです。これとこれで、あのときに観た景色っぽくなるかもしれないとか。でも、釉薬の配合はレシピと言うくらい繊細で、その通りにしても毎回違う色が出るんですよね。びっくりするような色が出てきて、たまにこれ好きかも、っていうのがあって。毎回一人でスター誕生をしている気分ですよ。
フォルムは、イメージがあっても実際に轆轤でひいてみると実現できないことがあるんですね。それで自分のスタイルに落ち着くこともあるんですが──私は他の作家よりも土をかなり柔らかくしているので、力をあまりかけずに、ファンファンファンファンーって轆轤をひいていると思うんです。高台をちょっと削るだけで、縁の処理もしないですし。造形に関してはどちらかというと、好みの形はありますが、あまり深く考えていないこともあります。経験を重ねるなかで、いまは随分フリーになった気がしていますね。偶然できた形にインスパイアされてこの色がいいかも、ってパズルを組み合わせる感じですね。
──やきものへの豊かな文化が根ざす国
数年前から、陶芸の世界と正面から向き合いたいと思うようになりました。古い陶器や抹茶碗の造形について勉強したり、お茶も習いはじめたんです。すごい世界に足を踏み入れたんだな、と今更ですが気がつきました。一方で、若い人でもTシャツを選ぶように、気軽に自分の為の陶器を買う文化がある日本は素敵だと思います。器を使いこなしている人が多いですよね。料理を盛り付けるだけではなく、花を生けたり、そのまま飾ったり。やきものに対してそういう豊かな文化が根ざしている国なので、そのお陰で自分たちは活動を続けていけるのだとも思うんです。用途がなくてもいいじゃないか、と考えているのはそういうところからかもしれません。やきものをアートピースとして所有したいというメンタルを日本人は持っているのかもしれませんよね。そういう感覚で私もつくる──難しくて、悩むんですけれど「用途がなくても買ってもらえる用途があるもの」を目指しています。
オブジェに移行したいと思った時期もあるけれど、いま器にぐっと引き寄せられているのは、アートピースでありながらも、もっと身近に生活を豊かにしてくれるというところがいいなと思っているからかもしれません。
インタビュー・編集/スパイラル