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生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第10回は、ガラス作家の河上智美さんにお話を伺いました。
──職人として、手の中で生産することに興味を持つ
両親が共に職人の家だったので「手に職をつける」という考えが身近にありました。それに、父親が美術館巡りを趣味にしていて、デパートの美術画廊なども含めて、色々なところに連れて行ってもらった影響か、幼い頃からものづくりに興味を持っていましたね。ただ、色々な作品を観るうちに、鑑賞する対象としての美術の分野ではなく、職人として自分の手の中で生産をすることをしたいと思うようになりました。
祖母は手に職をつけて、社会で活躍をすることについての考えを子供の私にもよく聞かせてくれました。
もしかしたら、子供の頃から個性的だったのかな?それでそういった職業を勧めてくれたのかもしれませんね。20代の初めにガラスと出会い、ガラスメーカーでの勤務を経て現在に至りますが、気がつけば人生の半分がガラスと歩んできた時間ですね。いまはおばあちゃんになっても、ガラスを吹き続けていたいな、って思います。
──毎日、躊躇せずに使えるものを
ガラスは直接に触って造形ができるものではないので──私の場合は、モールドという自作の凹凸をつけた筒状の金型を用いる吹きガラスの制作なので、思い通りにはならなかったりもするんですけど、そこはガラスとの調整ですね。
私は緊張して扱うガラスではなくて、気軽に日常使いができるもの、価格も生活に取り入れやすいかどうかを考えています。技術が身に付くとどうしても自分の技術の限界を見せたくなって、極限まで薄くしたり、大きくしたりということに気が向いてしまう事があるけれど、私はなるべく躊躇せずに使ってもらえる厚みや形を意識してつくっています。価格についても、毎日気軽に使えると思えて、2つとか3つを揃えて買うことができるような設定を心がけています。
試作品は自宅で実際に使ってみます。グラスだと、どのくらいの量のお酒が入るか計ったり、氷を沢山入れて飲む場合はどうか、とか。シーンを考えながら試してみることから始めているのですが、後半は呑むことがメインになってしまうことが多いのですが──。
──生活を楽しむお客さま、制作を楽しむ自分
私は寝ている以外の時間は制作をしているんです。つくることが大好きなので、起きている間はずっとつくっています。
一日のなかで、制作を午前と午後に分けていて、午前中は窯の温度が低いので、小さなものをつくって、窯の温度が上がってきた午後には鉢や大皿をつくります。午後は身体が疲れてきて、集中力も切れてくるので、一日の最後には夢中になれるものをつくるんです。サイズや形に規制のない一点物をのびのびとつくります。「サービスタイム」って自分では呼んでいるのですが、この時間は形が広がってしまったりしても、成り行きに任せます。ランプシェードはそれぞれ異なる形でもそれが個性になるので、この時に生まれます。お客さまは自分の作品を使って生活を楽しんでくださり、私は制作を楽しんでいるんですね。
新しいアイディアも制作の最中にどんどん浮かんできます。幼いころから美術館に通っていたこともあるかもしれませんが、自分と同じジャンルではなく、古いものとか異なる分野のものを観て、それが制作時のインスピレーションになります。観たものが自分のなかを通り、時間をかけて作品へと流れていく感じです。
インタビュー&編集/スパイラル
Spiral Online Storeでは、河上智美さんのアイテムの一部をお取り扱いしています。