生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第12回は、陶芸作家ユニット〈Satoko Sai + Tomoko Kurahara〉として、活動をしている、崔聡子さんと蔵原智子さんにお話を伺いました。
──メディアとしての陶芸
蔵原智子(以下、蔵原):
美術大学在学中に、崔さんは作品の一部としてカップをつくっていて、私は転写の技術を用いて陶板をつくっていて、ある時、崔さんのカップに転写してみようという話になり、試したらそれがなかなかおもしろくて。
崔聡子(以下、崔):
蔵原さんと二人で共同制作したカップを、卒業の時にお世話になった方々にプレゼントしたら、見てくださった人たちから、この活動を続けてみたら?と言って頂いたりして。それがユニットとしてのスタートでした。
私たちが在籍していた学科は、実用的な陶器をつくるというよりもオブジェなど現代アートとしての陶芸を教えてくれるコースでした。そこで学ぶなかで私たちは、現代アートよりももう少し生活に即したもので、美術的な考えやデザインなどの様々な要素が混じったような──でも器としての形でもあるものをつくれないか、という話をいつもしていたんです。
蔵原:
そういう経緯もあって、私たちはお皿などの陶器をつくる際も、先にテーマがあって、それに対してどうやってつくるか?ということを考えます。テーマやイメージに合せて鋳込みや型押し、手びねりなどの技法を選びます。制作のコンセプトを落とし込むメディアが陶芸だという感じですね。
崔:
陶芸のスタートが器作りの技術の習得に限らなかったお陰で、自由な方法で陶芸をすることができているのだと思っています。
蔵原:
作品で使用している転写の技術も、本来は大量生産のために考えられているものですが、手作業の版画として行なう面白さに重点がありますね。手作業ならではのかすれや滲みがあるので、やっていて飽きないですね。
──ユニットならではの強みを中量生産に活かす
蔵原:
私たちは、ユニットで活動するなら個人ではできない「中量生産」ができるもので、人の生活に入っていくものをやりたい──「一点物」でも「大量生産」でもない、写真や版画のような複製芸術を陶を使って作れたら、という考えから石膏型やシルクスクリーン転写といった複製技術と手仕事を組み合わせて陶器をつくるという試みをしています。一方で、アートピースとして一つの作品をつくることも平行して行なっているのでそれぞれ楽しさや難しさがあります。
崔:
「中量生産」のラインも、いわゆる器としての使いやすさを第一には考えていなくて、仕上がりのビジュアルや設定したコンセプトを大切にしていますが、生活で使えないものにはしたくなくて──例えば、お皿のような形のものも、食べ物だけではなくて、石鹸置きやジュエリートレイなど、使う人や状況によって変化することにも関心があります。
実際にお客さまが使っている写真を見せていただくと、私たちの想像以上に遊び心を持って使ってくださっているので面白いです。
蔵原:
使いやすさを目的としたサイズへのこだわりというより、手触りや質感を重視しています。釉薬が掛かっていない素焼きの段階でつるつるに磨いて、更に本焼きの後に水研ぎをして──持ったときに気持ちいいな、って思ってもらいたいんです。
崔:
私たちは、釉薬もオリジナルでつくっていて、毎回、たくさんのテストをして下絵具や異なる釉薬の重ねがけのトーンを探っています。あと、土自体に色を練り込んでいるのも私たちの作品の特徴ですね。今回展示している「taffy(タフィー)」というシリーズは土そのものに色が練り込まれているので、その色の美しさもご覧頂きたいですね。これまで明るいパステルトーンが多かったのですが、最近は私たちなりの渋い色の釉薬を追求してみたいね、って話もしています。
──完結した作品ではなく、使う人の余地があるものを
崔:
作品のイメージソースになるものは、普段見ているものの影響が大きいですね。以前はよく旅をしたりもしましたが、今はお互いに小さな子どもがいるので、身近な風景を中心にその時に感じたことなど、色々とお喋りをしながらコンセプトを決めたりしています。コンセプトの先にあるぼんやりとしたイメージが二人とも共通していることが多いですね。
蔵原:
あとは、絵画とかからもイメージを膨らませます。そういった二人で共通するイメージに実際の焼き上がりの状況が影響したりして、意外な仕上がりを楽しむこともありますね。
崔:
使えるものをつくる、ということについても私たちで完結した作品ではなく、持って帰っていただいて生活で自由に使うことで、違う余地が入ってくるものにしたいと二人でよく話しています。
最近の新しい試みとして、毎年末に制作するイヤーズプレートを使って、フード作家の方と一緒にお食事会を開催しています。お皿のイメージに合わせてメニューや盛り付けを考えてくださるのがとても新鮮で、私たちもお客さまと一緒にワクワクします。
蔵原:
一方でお客さまのストーリーを組み込んで作品をつくる、オーダーメイドの制作もしているのですが、これからも、もっとやりたいですね。
崔:
オーダーをいただいたお客さまからお話を聞いて、その人のイメージに合せてつくっていく──そういった作業が私たちはとても好きなんです。
アートプロジェクトとして、フィンランドの写真家マルヤ・ピリラさんと共同で行なっている「inner landscapes(インナー・ランドスケープス)」というシリーズ作品も実際のモデルがいて、そのかたからお話を聞いて、ポートレイトの様な陶芸作品をつくっています。このプロジェクトもオーダーメイドと同じく、人との交流がベースになるのですが、ストイックに造形からものをつくり出してくことではなくて──社会的な事や人間関係とか、色々な要素があるなかで自分たちがつくりたいものを二人で集めていって、何かの形にしていきたいという感じですね。
私たちの作品づくりの過程で、まず「こんなものが作りたい」っていうイメージの話し合いが最初にあるのは、これまで周りの方々からの反応や意見、今の気分や時代の雰囲気など、それについて二人で手を動かしながら話し合う──そういった経験によって培われたやり方なんじゃないかな?って思うんです。
インタビュー&編集/スパイラル
Spiral Online Storeでは、本展でご紹介したSatoko Sai+Tomoko Kuraharaのアイテムの一部をお取り扱いします。