生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。第18回は繊細な彫刻が施されたセラミックジュエリーを制作しているUU(ウウ)さん。ブランドのコンセプトである「結晶化」へのアプローチについて伺いました。
──彫る作業の積み重ね
磁土の表面に模様を施すのを主な表現として制作しています。
指輪やピアスのかたちに成形してから彫刻刀やカッターなどで彫りを入れていますが、彫り込んでから成形すると乾燥時に模様の部分が歪んだり割れたりしてしまいます。一方で、ある程度の硬さまで乾燥をさせないと、柔らかすぎて刃を離すときに直線が曲がってしまったりするので、粘土の状態を見ながら刃を入れています。曲面を彫るのは結構大変ですね。
こうして説明をすると、かなり繊細な作業のように思われるかもしれませんが、リングの場合、一つを彫るのに1時間もかからず、早いものは30分くらいです。ただ、彫りの作業の時は一日それしか行なわないようにしています。そうしないと集中ができなくて。一日5、6個を作ったら他に何もできないくらいくたびれてしまいますね。
新しい図案を彫る際は、面になった時のイメージをしながら紙にエスキースします。でも、実際に彫ってみないと分からない部分が多いですね。全体のバランスを見ながら整えているので、かなり自由な感じで彫っているんです。気分によってもモチーフの幅も変わりますし、意外と大雑把に形を決めている部分もあると思います。
──結晶化していく過程
ブランドのコンセプトに「結晶化」という言葉を置いています。時間をかけて形になる、石とか鉱物が子供の頃から好きで──自然現象ではあるけれど、それが人の行為によっても成し得るのではないかと考えています。そのものに傾ける時間や手間とか。私の場合は「彫る」という単純作業の繰り返しが結晶化に繋がっていく、人工物であっても結晶化していくイメージです。
最近、作品のバリエーションを減らしているんです。主にブルー、ホワイト、グレーの3色に絞って、形もかなりすっきりしたイメージのものになっています。
これは、子供が生まれたことが影響していて──妊娠した時に、それまでやってきた事ができなくなるだろうと思ったんです。活動を狭めた方が良いかもしれないな、と漠然と考えていて。妊娠中に制作をしながら、ぽわんと、色も狭めよう、一番やりたいことは何かな?ということが頭に浮かんで。やりたい事が出来なくなる分、やりたい事だけをやらなくてはいけない、と自然にそういう考えになって、活動を絞っていきました。結果、コンセプトの「結晶化」というキーワードにも焦点を当てることができました
実際に子供が生まれて、このアプローチが上手くいった気がします。自分で枠を決めたので、他のことを考えなくていいというか。家事や子育てがありながらも、こうして展示ができているという事は、考え方としては楽になったのかもしれないですね。作業も息子を保育園に送ってからお迎えの間までしかしないと決めていて、それが生活にちゃんとフィットして、すとんと納得できるかたちで収まった感じがします。作業効率も上がりました。今までは、幅を広くそれなりに数も作っていたのですが、幅を狭めたことで密度が上げられた──それまではいろいろな人に作品を見て欲しいという気持ちが強かったのですが、活動を絞ってからは興味がある人に見てもらえればいいな、っていう。割り切れるようになったところがありますね。もともと手先が器用だったので、いま思えば、あれもこれもできそう、という気持ちで、できるから作っていた、という部分があった気がしています。
──自分の中の水溶液をなるべく濃くしておく
民族的なものがすごく好きです。世界各国の民族の織物とか、マヤ文明の石垣の模様や縄文時代の模様とか、アイヌ文化などにも興味があります。そういった興味があるものをじっくりと眺めて、自分の中を循環して時間がろ過したものがモチーフとして現れる──それもブランドのコンセプトである「結晶化」なのかな?と思っています。濃い塩水が時間をかけてだんだん結晶になるような。そのためには自分の中の水溶液をなるべく濃くしておいたほうが良いと思うんです。小さな子どもがいるので、頻繁に出歩くことは難しいけれど、図鑑や映像などで日常的に情報を集めています。
蓄積されている感じ、行為が重なって生まれているような雰囲気が好きで、昔の古い建物をみつけたら写真に撮ってコレクションをしています。自分もそういう仕事ができたらいいな、って。石一つでも、火山が噴火して流れたマグマが何千年も経って山になって、それが砕けて石になって、それを海岸で今、私が拾う──そのものの背景に流れる何千年という時間をよく想像します。
一度にたくさんの作品を作る時、こっそり、これまで作ったものが地球上にどれくらいあるかな、って想像して一人で楽しむんです。何十年、何百年後にいろいろな所から私の作品が出土されて、並んだらどのくらいの面積になって、なんて。陶磁器は金属に比べると経年劣化は少ないので、遠い未来に出土するとしたら、金属部分が朽ちて磁器の部分が残って出てくるだろうな、なんて──。
インタビュー&編集/スパイラル