生活に携わる分野のものづくりをしている、作家・クリエイターの視点から、暮らしのかたちを考えるspiral market selection Interview。
第20回は、多治見を拠点に活動をしている田中直純さん。日々使う器だからこそ、自由に軽やかに、そして少し特別な気分になれる──使い手を尊重するものづくりを目指し制作されているそうです。
──ゆらぎのある器
京都の大学で美術工芸の陶芸コースに通っていました。神社仏閣がとても好きで、在学中は、常に自転車で京都中を見てまわっていました。もともと、美術に興味があったのですが、当時は映画にも興味があって──役者として自分が出演してみたいと思い、京都市内の学生が集まる映画サークルに所属していました。陶芸も興味があるものの一つという感じで、その当時はずっとやっていくという気持ちは無かったんです。学生時代はこの先自分がどうなりたいか常に迷っていた気がします。
大学では、轆轤を使っていかに同じサイズのものを短時間できっちりと正確に作れるか、が求められていたので、機械的な生産方法が自分には少し窮屈でした。その当時はピシッとした緊張感のあるものが「器」というイメージでしたね。
進路に迷っていた大学4年の時に、陶作家の安藤雅信さんの作品に出会い、衝撃を受けました。今までに出会った事のない美しいゆらぎをもった器。その時の感動は言葉では表せません。自分が求めていたものはこれなんだ、と見た瞬間に感じ、その先の道がひらけました。自分から積極的に行動をする性格ではないのですが、その時ばかりはこれを逃してはいけない、と思ってすぐに「工房で働かせていただきたい」という旨を連絡しました。でも、すぐには叶わず一度実家に戻り家業を手伝っていたのですが、やはり忘れられなくて、何度も連絡をしたり会いに行ったり、自分の気持ちを伝えて──安藤雅信主宰の「ギャルリももぐさ」に入社し今年で13年になります。
──使い手を尊重した器作り
自分の作品は、板状の粘土を石膏型に押し当てて成形する「タタラ作り」と「玉作り」という粘土の塊を型に沿わせて伸ばしていく技法を使って作っています。轆轤だと1日200個くらい作れるものが、タタラの仕事だと20〜30個程度が限界で。色々な技法を試したのですが、いまのやり方が自分の表現したい器──手に持ったときのなめらかな質感や軽やかさ、シンプルな形状の中にも手仕事の温かみが感じられる器に、一番適していると思います。
作家ものだからといって奇をてらったものではなく、手にとりやすく毎日使いたいと思える器でありながらも少し特別な気持ちにさせてくれるものを作り続けていきたいと思います。
──白い器をつくる
常に白い釉薬の実験をしています。なかでも食材が映える、ニュアンスのある「白」というのは常に研究を重ねています。
単純に白い色を出すのは簡単なのですが、窯の温度や焼く時に置く場所によって随分と色の出方が変わるんです。活動の当初から釉薬も自分で調合をしています。市販されている釉薬は、そういった変化の中でも安定した色を再現できるのですが、自分で調合する方が安定性には欠けますが独特な質感が出るところが面白く、魅力を感じます。試行錯誤を重ねて、いまも自分の作りたい色に近づけています。
李朝の器、中国の宋の時代の器、初期伊万里の器などの佇まいが好きで、美術館に足を運んだり骨董市で手に入れたものを常に手元に置いて眺めています。そういったこれまで見てきた、経験してきた様々な要素が混ざりあい今の自分の作品ができているのだと思います。
Interview: SPIRAL