―SICFの新部門の設立と、「+S」Spiral Market 大阪の出店
2000年、インターネットやコンピュータの急速な普及により、個人レベルでのクリエーションが活発化し、新しいコミュニケーションのあり方が台頭する中で、インディペンデントに活動するクリエイターを紹介するアートフェスティバル「SICF(スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル)」が誕生した。 当時は2002年にスタートした村上隆主宰の現代美術の祭典「GEISAI」など、公募型のアートフェスティバルは珍しくなかったが、SICFはノンジャンルであること、出展審査があることなど複数の条件によって、一定のクオリティを保ったジャンル横断的な作品に出会える若手作家の見本市として、その個性を打ち出すことに成功した。また、バブル崩壊の煽りとスパイラルの「文化の事業化」という方針のもと、主催者のみでなく、出展者・来場者・スパイラルの3者が出資し合う仕組みを採用し、22年もの間、経済的事由で打ち切られることなく、開催を続けている。 さらに、表参道という地の利と、それまでのスパイラルのブランドイメージにより、クリエイティブ職の従事者や、アートやカルチャーに対して感度の高い方々が集う場所として開かれることで、SICFはクリエイターにとって、次なる活躍の場を広げられる邂逅の場として認識され、支持されるようになった。
SICFが始まった2000年は、スパイラルが「アートライフ宣言」をした年でもあった。それは、今までスパイラル館内で培ってきたノウハウやクリエイティブネットワークを活用し、アートの実社会への応用を目指し、館外のプロジェクトを推進していくための宣言であった。実際にSICFの出展者が、プロジェクトの中でアートワークの制作や展覧会への出展、プロダクト開発など、さまざまな形で起用されており、それは、今日までスパイラルの事業にとって重要な資源となっている。
そして、2021年、スパイラルはさらなる若手作家の起用のため、SICFに従来の「EXHIBITION」部門に加えて、「MARKET」部門を設立した。スパイラルの活動のテーマは「生活とアートの融合」であり、生活とアートが美しく溶け合った豊かなライフスタイルを実現するために、「質の高い芸術活動を日常生活の中で気軽に楽しむための提案」や「日々の生活そのものを、よりアーティスティックに演出するための提案」を行なっている。SICFはこれまで、前者の提案について協業できるクリエイターを多く輩出していたが、後者は少なかった。新部門を設立することによって、生活に携わる分野でものづくりを行なっているクリエイターに参加を求めた。 実際に、2021年は関西では初となる「+S」Spiral Market 大阪を出店した年でもあり、大量生産が難しい、作家性が魅力の作品を展開する「+S」Spiral Marketにとっては、新店舗展開に伴う、新たなクリエイターの発掘は喫緊の課題となっている。また、「+S」Spiral Market 大阪は、ギャラリースペースを併設する新業態の店舗であり、アート作品を販売するという点においても、SICFの両部門と親和性は高いと言える。
もともと、SICFは若手クリエイターの発掘・育成・支援を目的として毎年、開催されている。しかしながら、上述したプロジェクト起用も一部の作家の一時的なものであり、また、スパイラルでの展示を約束する顕彰に関しても、一部の優れたクリエイターに授与されるのみであった。新部門ができ、さらなる可能性が拓かれたことで、スパイラルが、SICFの開催以降もクリエイターと継続的に関係を構築できる土壌が整いつつある。そして、それがスパイラルの事業の強みとなり、ひいては、クリエイターの活動そのものを持続的なものにするための支援となっていく。そのような循環を目指し、スパイラルは今日もクリエイターと併走する。
*スマートイルミネーション横浜は、スパイラルが運営を受託している象の鼻テラスで始まった、新たな夜景の創造を試みる国際アートイベント。2012年以降は横浜市全体の取り組みへと発展し、横浜都心臨海部を舞台に、2019年まで毎年秋に開催された。
インタビュー・文 スパイラル広報