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- CREATOR’S INTERVIEW Vol.7/前編
第7回目のゲストはSpiral Xmas Market2025のキービジュアル・装飾を手がけた青山 夢さん。
神話や土着の文化を背景にマンガやアニメなど現代的モチーフを融合し、
時空を超えた神話的世界を描く現在までの軌跡を伺いました。
作品の中の「異形の存在」
ー青山さんは、ケルベロスや龍など、さまざまな架空の動物をモチーフにして作品をつくられていますが、
ご自身が制作されている中で一貫しているテーマや考えなどはありますか。
青山 夢さん:どの作品をつくるときも、人間から離れた存在でありながら、人間に影響を及ぼすものに興味を持って制作しています。昔から人々は神話や民話の中で、地震や津波など人の力ではどうにもできない現象・災害を、龍やヤマタノオロチなどに例えてきました。私も神話と同じ形式で、「今起こっている事象」を異形の存在として表現して、その視点から人間をうつしだしたいと思って、作品を描いています。
「理解できないことをどう受け止めたか」が描かれる神話の世界
ー神話や民話の世界に興味を持ったきっかけはありますか。
青山 夢さん:幼い頃から興味はあったんですが、深く掘り下げ始めたのは、自分自身が怪奇現象を体験してからですかね。やっぱり理屈では説明ができない現象って怖いじゃないですか。神話や民話ではそうした「人間が理解できないことをどう受け止めてきたか」が描かれていて、それが絵巻物や書籍、人の言葉で語り継がれてきている。
私自身、東北芸術工科大学に在学していたときはムカサリ絵馬*についての作品もつくりましたし、他にも従姉妹がギリシャ人とのハーフなので、ギリシャの神話もよく聞いていました。さまざまな昔の物語に触れたことで、人間の想像力の豊かさ、信じる力の深さを知って、それが直接的に作品づくりに影響していますね。
山形県村山地方に分布する死者供養習俗
〈現代ムカサリ絵馬〉
みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2020 展示風景/撮影:草彅 裕
幼い頃に救われた妖怪の存在
青山 夢さん:小さい頃から、異世界に通じるような物語にすごく興味があったんですよ。妖怪に関する話やホラー映画、スプラッター映画とか、いろいろ観ていました。でも私、ホラーものを見るくせにすごく怖がりなんですよ(笑)
でも、「妖怪」の存在に救われていた部分もあって。妖怪って、いびつで異様な形をしているから、初対面だったら絶対ゾワゾワすると思うんです。ただ、自分の中では、妖怪って幽霊ほど怖くない。もっとコミカルで、かつ日常の中にいる存在なんですよ。
ー確かに妖怪って、「人の念」や「呪い」とは違った存在ですよね。
家の軋む音を出す妖怪とか、日常に近いような(笑)
青山 夢さん:そうなんですよね。 天井が軋む音も、「死んだ人が歩いている」と考えるよりも「妖怪が歩いている」って捉えたほうが精神的に楽ですよね。小さい頃って、どうしようもなく怖いときがあるじゃないですか。例えば、勝手にドアが開いたときは「河童が私の様子を見に来たのかな」とか思うことで、怖くなくなるんですよ。そうやって説明できない現状に妖怪を重ねること安心できる、自分を慰めてくれるような存在でしたね。
相反するものが共存する世界
ー青山さんの作品も妖怪と同じように、恐怖だけを描いているわけではありません。
青山 夢さん:そうですね。「怖さ」もあるけど「優しさ」もある。反対なものが一緒にある世界かもしれないですね。人間自体も優しさや希望で溢れる部分がありながら、どうしようもなく破壊的になってしまう部分もあると思うんですよ。片方しかないのは人間っぽくないというか。この二つがあるからこそ、人間らしさがあるなと思っています。
ー悪い部分も含めて人間を好きということでしょうか。
青山 夢さん:いえ。人間が好きっていうわけではなくて、「人間そのものを描きたい」と思っています。一番好きなのは犬ですし(笑)人間そのものの中には自分自身もいて。自分が絵を制作する時も、気分がいい時とか、沈んでいる時とか、描く時間にもいろいろな感情があって。そういう自分自身も投影しています。
人間や自分という小さな存在の中にも、世界という大きなくくりの中にも相反するものが一緒に共存していると思っていて。それをありのままに描くのが、「今生きている世界」を表現することだなと考えてつくっています。
日常で触れている親しみのある存在をモデルに。
ー「人間そのもの」を描きたいということですが、今回の作品にはエイリアンが登場しています。宇宙から来た、未知の存在ですね。
青山 夢さん:自分にとって恐怖を感じるのは、単に「怖いもの」ではなくて、人間が理解しきれない「未知のもの」を感じる象徴なんです。ケルベロスとか龍とか、今回のエイリアンとか。人間とは違う価値観で世界のあり方を映している存在を選んでいます。
できあがった作品を見ると怖く感じる部分もあるかもしれませんが、私の作品に登場する龍やケルベロスのモデルは、「自分の家で飼っている犬」なんですよ。実はよく見ると犬の骨格なんです。
私にとって犬はすごく親しみやすく、優しい存在。その日常的に見ている親しみのあるものを怖く変身させています。龍やケルベロスだけだと、どうしても怖く感じてしまう。だからこそ、「恐怖」と優しさ」、「未知なもの」と「親しみやすさ」を同居させています。
ーまさか、「犬」だったとは!
青山 夢さん:はい、そうです、全部。目の位置を見てもらえれば、ほぼ犬ですよ。あとは口の作りとかも犬ですね。ワニの口ってもっと裂けていて、歯も細いんですよ。
絵巻物を参考にした龍だと、「誰かの想像した龍」じゃないですか。石倉敏明さんという芸術人類学者の方の本の中に、獅子踊りも鹿の動きを真似て踊ったもの、ということが書いてあったんです。獅子踊りが生まれた場所では、鹿がたくさん生息していて、その日常から影響を受けたということなんですよね。日常でいつも目にするものが、神話に変化していく。
「神話」を語り継ぐとき、空想にも限界があるじゃないですか。でも、よく見ているものなら深く語れますよね。
犬は夏になるとこんな匂いがしてくるなとか、触り心地とかも話せるけど、どこかの資料から参考にしたものだと、体験はしていないですよね。だから、自分も作品をつくる時は、神話を生み出した人たちのように、自分の日常のそばにあるものをモチーフにして、そこから自分の物語をつくろうと思っていて。自分の実家の犬と世界の状況を組み合わせる。そこからドラゴン化させたり、怪獣化させたりしています。
その人の視点でしか見ることができない「なにか」が必ずある。それがオリジナルになる。自分の身近なものが描きやすいって気づいたんですよね。そこから受けるインスピレーションの量が、本から受けるときとは違う。匂いとか形とかも目の前で感じることができます。だから結局は、全部犬ですね。
青山さんが大切にしている「手づくり感」と「好きなことを突き通す」ということ
ー青山さんは制作において「手作り感」を大切にしているとお聞きしましたが、「手づくり感」のどこに魅力を感じていますか。
青山 夢さん:私、ウルトラ怪獣のビジュアルがすごく好きなんですよ。ウルトラ怪獣って、たまに隙間から人間の皮膚が見えてたりとか(笑)今のテレビ番組や映画だったら、ありえないですよね。
現代のものって粗がなくて、全部きれいにつくられすぎちゃってるというか。つなぎ目も見えない、糸もほつれてないし、堂々となにかが垂れていることも、もちろんない。でも昭和の時代ってそういうものがたくさんあって、私はその継ぎ接ぎみたいなものに「カッコよさ」を感じるんですよね。暑苦しさも泥臭さもあるじゃないですか。
これから生きていく時代で、そういう泥っぽさみたいなものってどんどんなくなっていくから、逆に追い求めてもいいんじゃないかなと思って。
ーそれぞれが好きなものを突き通しているんですね。
青山 夢さん:そうですね。 今って、「有名な人が好きなもの」を好きになるじゃないですか。
これってすごく変だなって。自分が好きなものが好きでいいじゃん!と思っていて。
ー自分の芯を貫くというような?
青山 夢さん:そうですね。 そういうことは絶対守らなくちゃいけないと思っています。これからの時代、自分の好きなものを好きって言えるようになっていかないと。流されていたらみんな同じになっちゃう。いろんな好きがあっていいと思います。 いろんな好きがないと、幅広く新しいものは生まれない。枝分かれしていくからこそ見えるものがあると思うんです。
ー自分の好きなものを我慢しなきゃいけないのは悲しい社会ですよね。
見ている人が自由な気持ちになれるように
ー青山さんは制作の中で「手作り感」を大切にしているとお聞きしましたが、「手作り感」のどこに魅力を感じていますか。
青山 夢さん:今の社会って、同調圧力が強くて、抗いたくても抗えない部分がある。だから、息苦しく感じている人っていると思うんですよ。大事なものを犠牲にして、自分の感情を押し殺して、流されざるを得ないとか。
そういう人たちの受け皿じゃないけど、私の作品を見た時に、「あ!なんでもやっていいんだ!」って思ってほしい。「なんでもいいんだ、好きなものを好きって言っていいんだ!」って。
見ている人が自由な気持ちになれるのもアートの強みだと思います。今後の制作でも大事にしていきたい部分ですね。
Photo:Kimiko Kaburaki
\近日公開予定/
CREATOR’S INTERVIEW Vol.7/後編
青山 夢さんに今回のクリスマスマーケットに込めた想いを伺いました。
青山 夢
1997年茨城県生まれ。
死生観や信仰、民間伝承を背景に、マンガやアニメなど現代的モチーフを融合し、時空を超えた神話的世界を描く。人間と自然の共生や治癒と破壊の循環をテーマに、獣の皮膚や毛を素材に制作。その表現は、ウルトラ怪獣の縫い目や寺山修司作品の極彩色の濃密な昭和の質感に、ポケモンやたまごっちの滑らかな平成的フォルムを重ね、異なる時代感覚を融合させた独自の造形世界を構築している。
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