広辞苑には無数の言葉が溢れている。その中には、誰しもが抱える情けない過去や恥ずかしい思い出が蘇る言葉が沢山閉じ込められている。私はそんな言葉たちを探して切り絵を施し、過去の自分と向き合っている。消し去りたかった記憶も、大人になってから友人に話すことで「切ないねー」と笑ってもらえる。そこでようやく当時の私は救われるのだ。皆様にも、この作品達のように切なく笑って読んでいただけたら嬉しく思う。
《浪人》
高校時代、遊びほうけていた私は、当然大学受験に失敗をし、浪人生となった。親と「受験費、お昼代、携帯代は自分で稼ぐこと」を約束し、私はコンビニでアルバイトを始めた。ちなみにこのアルバイトが暇すぎたため、レシート切り絵が誕生した(勉強しろよ、という突っ込みは聞かないでおく)。
月1度行っていたお笑いライブも我慢し、予備校とバイトを往復する日々が始まった。予備校では友人を作らず、同じ高校の子と時々昼飯を食べるぐらいで、人との関わりはほぼ皆無だった。喫煙所に集まるイケてる集団を見ては、「私だって大学生になったら謳歌してやる」と下唇を噛み締めていた。
そんな中、高校の同窓会のお知らせが来た。私はテンションが上がった。何話そう!何着ていこう!私は気合いを入れたお洒落をして、ソワソワしながら会場に向かった。
久しぶりの友人達との会話は楽しかった。大学や専門学校の新生活の話を聞いては羨ましいと嘆き、自身の予備校でのぼっちっぷりを自虐交じりに話してはこすい笑いを取っていた。楽しすぎて話しすぎて私の声は早々に枯れた。
そんな中、向こうのテーブルにいた友人が私を見つけ、近づいて来た。そして屈託の無い笑顔でこう言った。
「何で浪人生なのに来てるの??」
反応が出来なかった。彼女が意地悪でそう言ってる訳では無いと分かったからだ。純粋な瞳で投げかける彼女の言葉が浮かれた私に刺さった。
"浪人生なのに……"その言葉で、気合いを入れた服も、大きいピアスも全てが恥ずかしくなった。
「……予備校の帰りで……ちょっと寄ったんだ」
しゃがれた声がなんとも虚しかった。
憧れと恥ずかしさと悔しさをバネに、翌年、私は第一志望の大学に合格した。