SPIRAL

Where Creativity Comes to Life

SICF25 グランプリ Special Interview 後編

Mona Sugata × 石関亮

Art & Exhibition

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Photo:Kimiko Kaburaki

「Tree of life -A planet of playing beings 遊ぶ生命たちの星-」

スパイラルガーデンに現れた「生命の樹」。

昨年SICF25*EXHIBITION部門でグランプリに輝いたMona Sugataによる展覧会、

「Tree of life -A planet of playing beings 遊ぶ生命たちの星-」が先月25日、好評のうちに幕を閉じました。

生命をつなぐ強さや美しさを、花や葉を組み合わせ表現するアーティストMona Sugata。

今回、KCI(京都服飾文化研究財団)のキュレーター・石関亮が作品を実際に鑑賞し、対話を通じて、「生命の樹」に込められた思いを紐解きます。

前編では、「生命の樹」に込められた想いからMonaさんの死生観まで、お話しを伺いました。

 

「こうあらねばならない」という価値観が緩やかになった現代

Sugata:私、昔から職人気質なんですね。実際に職人だったこともあり、実はアーティストとして「これがわたしです!」と作品を出すことに恥ずかしさがある。

今回グランプリとして引き上げていただいて、その恥ずかしさを越えることが必要だと思って展示にチャレンジしたんです。でも、「職人」と「アーティスト」どちらも確実に持っている私の要素なので、あっちに行ったりこっちに行ったり、「突き詰めたい」という職人気質な時と、「こうしたい」というアーティストな時と、両刀使いのような感じで制作していましたね。

 

石関:良いですね。

ある種、自分の中に二人いるわけじゃないですか。ひとりで二人組という感じ。最近ファッションでも、デザイナーがグループだったり、わざと匿名性を出すために役割を分担させたりするブランドもあります。世の中的にそういう動きになっているのかもしれませんね。

昔は、ある種の「ひとつの個性」があって、それがアーティストやデザイナーだったわけですね。「ひとり一人格」という前提だったと思うんですけど、今は、表に出す人格と、うちに秘めている人格とどちらもある。それを自分でもわかっているし、周りの人もそうだよねという世の中じゃないですか。

「ひとつの個性」としてのアーティスト・デザイナーって、ある部分で旧時代的な考えなのかもしれませんね。「アーティストは突き破らなければならない」とか、「デザイナーは毎シーズン違うものを出さねばならない」とか、「こうあらねばならない」みたいなものが今は緩やかになっている。

 

Sugata:スター性がないといけない、とかですね(笑)。

できないところを補い合っていこうと、認め合うようになっているのかもしれませんね。

 

石関:ブランド自体もデザイナーがどんどん変わっていく。だからブランドのアイデンティティなのか、デザイナーのアイデンティティなのかわからないんですよね。同じデザイナーが全く別のブランドで、似たようなテイストでやっていたり。デザイナーってなんなんだろう、ブランドってなんなんだろう、と思わせることがファッションでは結構起こっていて。今を肯定的に捉えると、昔のデザイナーのイメージ、ブランドのイメージが時代に合っていないんだろうなと思いますね。

 

全ての生物の中で築かれている「補い合う」という関係性

石関:お互いに補い合っているという、という文脈で、先ほどの生命の樹のお話を思い出したんですが、「他の植物を助ける植物」って面白いですね。

 

Sugata:わたしも植物同士でそんなことが行われているなんて知りませんでした。

でも森って、資源が限られた狭い環境の中で、あれだけの植物が生きているんですよね。

下にいる小さな植物は、木が覆ってしまうから太陽の光が当たらない。だから覆っている側の木は、浴びている太陽の養分を下へと分け与えていると知って、ああそうしないと生きていけないよな、それこそ人も含めてみんなそうだよな、と感動しましたね。

時代によって変わる現実の切り取り方

石関:時代によって見方が変わってきていて。

昔は、人は自立していて、自立した者同士が合わさり、関係性をつくるという考えだったんです。今は自立しているというより「補い合う」。他の生物の世界も見ていくと、やっぱり補い合っていることはあるよね、と。

他にも、昔は人体では、「脳」が指令を出していて一番えらいというイメージだったんです。だけれども、先日NHKのとある番組を見ていたら「そうじゃないぞ」と。細胞同士が連携しあっているそうなんです。脳が手を動かしているのではなく、手も脳を動かし、足も動かしている。そういった関係性なんだと知りました。

どんどん世の中の現実の切り取り方が変わってきているんですよね。

 

Sugata:昔からそうだったのに、それに気づかなかったというか。本当のことが露わになってきているんだと思いますね。

「スター性がある人じゃないとうまくいかない」と思っていたことも、でも本当はそうじゃなかった。みんなが補っていたからこそ、成り立っていたということに気づき始めて、その事実を受け入れて、「誰もが助け合えればどこまでもいける」「雑草でも生きていける」というような、安心できる事実にどんどん導かれているような気がしています。

 

石関:アーティストだけじゃなくて、サポートをしている人がいるからこそ成り立っているぞ、とか。そういった目線もありそうですね。

 

Sugata

そうですね!今回の展示も私は最初にラフなスケッチとアイデアを出しただけなんですよ。私は設営や施工に関しての知識がないので、簡単に実現できると思って(笑)。でもそれには大きな作業車が2台必要だったり、作業員が何人も必要だったりとか。プロフェッショナルな皆さんが土台をつくってくれたからこそできたことだったな、と。イメージしたことを現実にできたのは、私以外のプロが手伝ってくれたからこそだなと思います。

 

石関:つくっているプロセスが「生命そのもの」だったんですね。

 

Sugata:まさに体感で学びました。

 

(スパイラル加藤)

SICF25でグランプリに選ばれたときも、Monaさんはエネルギーがとにかくすごいと審査員の皆さんおっしゃっていました。

ブースで展示されていた作品は大きなサイズではなかったので、160平米の空間で新作を展開できるだろうかという不安もあったのですが、皆さん「絶対できる」と確信めいておっしゃっていて。本当にその通り、芽を生やし、枝を広げ、成し遂げたな、と!

 

石関:素晴らしい。まさに「木」のエネルギーですね!

Mona Sugata

1983年東京都生まれ。2009年多摩美術大学絵画専攻版画研究領域博士前期課程修了。

古来から続く“生命としてのわたしたち”として、植物、虫、人間などあらゆる生き物の繋がりや流れを見つめ、いのちを繋いでいく営みの強さや美しさを、花や葉を組み合わせシンボリックに表現する。

受賞歴に、「SICF25」 EXHIBITION部門グランプリ(2024)。
主な出展歴に、個展「GRASSLAND」(2024/FALL /東京)、企画展「Sunlight in windows」(2023/AOYAMAHÜTTE/東京)、「Green Constancy」(2024/六本木蔦屋書店/東京)、「ART SESSION」(2024/銀座蔦屋書店/東京)など

石関 亮(いしぜき まこと)

京都服飾文化研究財団キュレーター。京都大学大学院修士課程修了。2001年より京都服飾文化研究財団に勤務。2011年よりキュレーター。2015年より、学芸課課長を兼務。

展覧会「LOVEファッション―私を着がえるとき」「ドレス・コード?―着る人たちのゲーム」の共同企画の他、「Fashion in Colors」「ラグジュアリー」「Future Beauty」等のファッション展の企画・運営に参画。研究誌『Fashion Talks…』編集、現代ファッションを担当。