広辞苑には無数の言葉が溢れている。その中には、誰しもが抱える情けない過去や恥ずかしい思い出が蘇る言葉が沢山閉じ込められている。私はそんな言葉たちを探して切り絵を施し、過去の自分と向き合っている。消し去りたかった記憶も、大人になってから友人に話すことで「切ないねー」と笑ってもらえる。そこでようやく当時の私は救われるのだ。皆様にも、この作品達のように切なく笑って読んでいただけたら嬉しく思う。
《ダンス》
小学6年生の夏、私は林間学校のお楽しみ係として学年会議に参加していた。最後の夜のお楽しみ会で何をするか議論する中、それまで黙っていたK先生が前に出て来て、黒板に大きく何かを書き始めた。
"ジュリアナ日光ダンス大会"
文字面のインパクトに一瞬教室は静まり返るも、「ミラーボール、もう用意してあります」という先生の一言で、どっと笑いと拍手が起こった。
実はその頃、私は海外の映画で観たミラーボールに憧れを抱いていた。他の生徒も皆、口車に乗せられ、満場一致でダンス大会に決まった。K先生は満足そうに「体育館をディスコにしちゃいましょう」と笑った。
そして翌日、決定事項をクラスメイトに発表するとまさかの大ブーイングが起きた。 「絶対に嫌だ」「肝試しの方が良かった」。男も女も次々と容赦なく私に文句を言ってきた。私は蚊の鳴くような声で「ミラーボールもありますし、もう決まったことなので……」と答えることしか出来なかった。
「どうせK先生の提案だろ。まんまと乗せられやがって」
図星すぎて何も言えなかった。そして男子達は「俺らは絶ッッ対、踊らないからな」と言い放った。
嫌な予感がしたが、その予感は的中する。
林間学校最後の夜、他のクラスも同じ反応だったようで、誰一人として踊る者はいなかった。何人かの優等生がK先生に促されて真ん中のお立ち台に登ったが、周りの視線に耐えきれず数秒で降りた。爆音のユーロビートが流れる中、先生たちだけが扇子を振り回し、躍起になって踊った。肝心のミラーボールはと言うと、床に置くタイプで私が想像していたものよりはるかに小さかった。
K先生の「踊れ踊れ踊れーー!」の声が体育館中に虚しく響き渡った。