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昨日の景色#13

ちょっぴり切なく笑える、切り絵に込められたエピソード
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広辞苑には無数の言葉が溢れている。その中には、誰しもが抱える情けない過去や恥ずかしい思い出が蘇る言葉が沢山閉じ込められている。私はそんな言葉たちを探して切り絵を施し、過去の自分と向き合っている。消し去りたかった記憶も、大人になってから友人に話すことで「切ないねー」と笑ってもらえる。そこでようやく当時の私は救われるのだ。皆様にも、この作品達のように切なく笑って読んでいただけたら嬉しく思う。

《水着》

小学生の頃、家族団らんで思い出のアルバムを見ていた時のこと。突如、姉が1枚の写真を見て声を上げて笑った。

「何で双子達、パンツ一丁なの?!」

そこにはお揃いのオレンジ色の海パンを履いて水遊びをする3才頃の私と妹が映っていた。もちろん上は何も付けていない。

小さい頃はみんなパンツ一丁で泳ぐもんだと母トシエから教わっていたため、どうして姉が笑ってるのか分からなかった。姉は「そんな訳ないでしょ……」と他の写真を指差すと、可愛いワンピースタイプの水着を着た女の子が沢山映っていた。

騙されてたのか!とトシエを睨むと、「双子は2枚買わなきゃならないからさ……。でも本当に昔は女の子用の水着なんて無かったんだから」と、いつの時代の話をしてるんだよ、と突っ込みたくなるような言い訳をした。

姉が「あまりにも双子が可哀想だ。私の小さい頃の水着があったでしょ……」と嘆くと、トシエは「あれは古くなってたから私の上履き袋にしちゃったのよ」と、またまた衝撃発言をした。

PTA役員としてしょっちゅう学校に来ていたトシエの上履き袋は見覚えがあったが、改めて見ると、両足の付け根部分が縫われ、肩紐の部分はそのまま取っ手として利用された水着だった。背中には大きく“田中”と書かれていた。

「これ水着だったのかー!!」と私達が騒ぐと、トシエは「リメイクよ」と照れ臭そうに笑っ た。

その時のトラウマなのだろうか。現在、女の子の母となった私は、可愛い水着を見つける度についつい買ってしまうのだ。

タナカマコト
ハサミ一つで切り絵をする切り絵作家。
細かな下書きをしないでフリーハンドで切り絵を制作。レシートや書籍に印字された言葉を残しながら形を切り抜いたり、写真を切り抜くことで、媒体のもつ意味と切り抜かれた形を関連づける独自のスタイルで活躍する。近年ではCDジャケットデザインやTVCM、WEBCM、ミュージックビデオ、店内装飾など、切り絵を通して活躍の幅を広げている。SICF20グランプリ(2019年)。
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