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昨日の景色#20

ちょっぴり切なく笑える、切り絵に込められたエピソード
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広辞苑には無数の言葉が溢れている。その中には、誰しもが抱える情けない過去や恥ずかしい思い出が蘇る言葉が沢山閉じ込められている。私はそんな言葉たちを探して切り絵を施し、過去の自分と向き合っている。消し去りたかった記憶も、大人になってから友人に話すことで「切ないねー」と笑ってもらえる。そこでようやく当時の私は救われるのだ。皆様にも、この作品達のように切なく笑って読んでいただけたら嬉しく思う。

《仲間》

高校2年の夏休み前、私は某コーヒーショップでアルバイトを始めた。社員のAさんを中心にスタッフ同士の仲が良く、バイトが長続きしない私にとっては初めて仲間が出来た職場だった。しかしオーナーはスタッフから慕われているAさんを気に入らなかったようで、よく私たちの所に来てはAさんの悪口を言っていた。

ある日、Aさんとオーナーが言い合いになり、その結果、Aさんが秋で辞めることになった。スタッフ達は猛反発した。

「俺たちも辞めようぜ」「辞めてAさんとキャンプに行こう」「レンタカー2台借りよう」「マコトも行くだろ?」

私は皆のことは好きだったが、バイト仲間特有のノリがどうも苦手で、辞めるまでの仲間意識はなかった。

「Aさんは応援したいですが、毎月の携帯代の支払いもあるので私は残ります」

皆からは残念がられ、Aさんからは残る私に負担がかかってしまうことを心配された。正直不安だったが「送別会は私が企画しますよ!」と明るく答えた。

秋までに覚えなければならない仕事が増え、より一層忙しくなる中、夏休みのシフトを提出する際に間違えた希望日を記入してしまった。まだシフトが決定する前だったのでオーナーにそのことを伝えると「休みたい理由によっては認めてあげる」と言われた。

本当は言いたくなかったが正直に「高校生クイズ大会に出場するためです」と答えると「認めません」と即答された。

私はその日でバイトを辞めることにした。

結果、誰よりも早く辞めることになった私は皆から苦笑いで見送られた。ちなみに辞めてまで挑んだクイズ大会は一回戦で敗退した。

■ プロフィール
タナカマコト
ハサミ一つで切り絵をする切り絵作家。
細かな下書きをしないでフリーハンドで切り絵を制作。レシートや書籍に印字された言葉を残しながら形を切り抜いたり、写真を切り抜くことで、媒体のもつ意味と切り抜かれた形を関連づける独自のスタイルで活躍する。近年ではCDジャケットデザインやTVCM、WEBCM、ミュージックビデオ、店内装飾など、切り絵を通して活躍の幅を広げている。SICF20グランプリ(2019年)。
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