JA EN

昨日の景色#23

ちょっぴり切なく笑える、切り絵に込められたエピソード
230920_006+s.jpg
230920_007s.jpg
230920_008s.jpg
230920_009s.jpg
230920_010s.jpg

広辞苑には無数の言葉が溢れている。その中には、誰しもが抱える情けない過去や恥ずかしい思い出が蘇る言葉が沢山閉じ込められている。私はそんな言葉たちを探して切り絵を施し、過去の自分と向き合っている。消し去りたかった記憶も、大人になってから友人に話すことで「切ないねー」と笑ってもらえる。そこでようやく当時の私は救われるのだ。皆様にも、この作品達のように切なく笑って読んでいただけたら嬉しく思う。

《漫才》

小学5年生の林間学校で、各クラスで出し物をすることになった。私のクラスは男子2人がプロレス技をかけ合うといった、今だったら完全にアウトな内容だったが、双子の妹のクラスは、なんと妹と親友の2人で漫才をするというのだ。私は興奮した。

そしてその日から毎日居残って漫才の自主練が始まった。内容こそ覚えていないが、タイミングや言い回し等、私も一丁前に指示を出しては微調整を繰り返した。ハリセンも手作りし、2人がどんどん自信をつけていく姿を見て私も誇らしく思い、クラスメイトに「妹が漫才するから絶対見てね!」と自慢した。

待ちに待った林間学校最終日、出し物のお披露目会が始まった。トップバッターのクラスが漫才だった時は焦ったが、タケちゃんマンとブラックデビルの格好で登場したのを見て、「衣装に頼りやがって。本場の漫才見せたるわ!」とエセ関西弁で対抗心を燃やした。

いよいよ妹達の出番になった。ハリセンを持って登場した妹と親友の後ろを、何故か10人ずつのクラスメイトがゾロゾロと付いてきたのである。

「何だこれは……」

親御さんからクレームが入ったのか、先生の忖度なのか、「俺達も出たい」と言い出した希望者が全員舞台に上げられたのだ。そして10人のボケと10人のツッコミによる漫才が始まった。

結果は予想通り散々だった。あれだけ練習したボケもツッコミもボロボロで、第一、後ろのメンバーがフザケてて何を言っているのか聞こえなかった。私の隣の友達が「これは何をしているの?」と聞いてきた時には泣きそうになった。

最後、妹が親友の頭をハリセンで弱々しく叩き、「あ、終わった」と察した生徒達がまばらな拍手をして終了した。

「全然面白くなかったな」とクラスの男子から言われた私は、トイレに行くフリをして逃げるようにその場から離れた。

途中、戻ってきた妹達の姿が目に入ったが、怖い形相の担任を前に、全員が静かに正座していた。皮肉にもその姿が一番面白かった。

■ プロフィール
タナカマコト
ハサミ一つで切り絵をする切り絵作家。
細かな下書きをしないでフリーハンドで切り絵を制作。レシートや書籍に印字された言葉を残しながら形を切り抜いたり、写真を切り抜くことで、媒体のもつ意味と切り抜かれた形を関連づける独自のスタイルで活躍する。近年ではCDジャケットデザインやTVCM、WEBCM、ミュージックビデオ、店内装飾など、切り絵を通して活躍の幅を広げている。SICF20グランプリ(2019年)。
WEB
Instagram
Twitter

切なく笑って バックナンバー

#1
日本米

#2
ミスター
 
#3
香水
 
#4
先輩
 
#5
バブル
 
#6
アルバイト
 
#7
浪人
 
#8
代わり
 

#9
ダンス
 

#10
葬式
 

#11
自転車
 

#12
映画
 

#13
水着


#14
うさぎ


#15
ゲームセンター


#16
文通


#17
黒衣


#18
窓ガラス


#19
ひまわり


#20
仲間


#21
内緒


#22
サイン

 

〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23 MAP
03-3498-1171
SPIRAL ONLINE STORE
SICFspiral scholeFooterBanners--sal.png
 
象の鼻テラスSLOW LABEL  spinner_logo_footer.png