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昨日の景色#24

ちょっぴり切なく笑える、切り絵に込められたエピソード
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広辞苑には無数の言葉が溢れている。その中には、誰しもが抱える情けない過去や恥ずかしい思い出が蘇る言葉が沢山閉じ込められている。私はそんな言葉たちを探して切り絵を施し、過去の自分と向き合っている。消し去りたかった記憶も、大人になってから友人に話すことで「切ないねー」と笑ってもらえる。そこでようやく当時の私は救われるのだ。皆様にも、この作品達のように切なく笑って読んでいただけたら嬉しく思う。

《おやつ》

小学6年生の頃、友人達と遊園地に行くことになった私は、双子の妹とウキウキしながら近所の雑貨屋へおやつを買いに行った。

予算は皆で決めた300円。カゴを持って店内を歩いていると、ある商品の前で足が止まった。

"虫入りキャンディ400円"。

大きくて透明なキャンディの中に、ミールワームという細長い虫がどんと1匹入っていて、その見た目のインパクトに私たちの心は撃ち抜かれた。

「これ持って行ったら絶対盛り上がるよね」

私と妹は大はしゃぎしたが、予算オーバー。ネタで買うには少々高かった。

「……でも当日のアイスを我慢すれば買えるよね」

どちらからともなくそう言うと、私たちは迷うことなく虫入りキャンディをカゴに入れた。家に帰ってから母トシエに「お金がもったいない!」と叱られたが、後悔はなかった。

遊園地当日、集合場所で早速友人達に虫入りキャンディを見せると、期待通り悲鳴と歓声が上がった。その反応に私たちは嬉しくなったが、子供の興味の移り変わりは早い。ものの数分で話題は他の子のおやつへと切り替わった。

園内でも、皆がおやつ交換をする中、私と妹は虫入りキャンディを舐めた。皆がアイスを買って食べている時も虫入りキャンディだけをひたすら舐めた。

私たちは何故わざわざ虫が入った、大して美味くもない飴を舐めているのだろう。

TVで昆虫食のニュースを観る度に、当時の切ない気持ちを思い出すのだ。

■ プロフィール
タナカマコト
ハサミ一つで切り絵をする切り絵作家。
細かな下書きをしないでフリーハンドで切り絵を制作。レシートや書籍に印字された言葉を残しながら形を切り抜いたり、写真を切り抜くことで、媒体のもつ意味と切り抜かれた形を関連づける独自のスタイルで活躍する。近年ではCDジャケットデザインやTVCM、WEBCM、ミュージックビデオ、店内装飾など、切り絵を通して活躍の幅を広げている。SICF20グランプリ(2019年)。
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