広辞苑には無数の言葉が溢れている。その中には、誰しもが抱える情けない過去や恥ずかしい思い出が蘇る言葉が沢山閉じ込められている。私はそんな言葉たちを探して切り絵を施し、過去の自分と向き合っている。消し去りたかった記憶も、大人になってから友人に話すことで「切ないねー」と笑ってもらえる。そこでようやく当時の私は救われるのだ。皆様にも、この作品達のように切なく笑って読んでいただけたら嬉しく思う。
《四十肩》
40歳の誕生日の朝、私は左肩の激痛と共に目が覚めた。あまりの痛さに「ちょっと待って!ちょっと待って!」と叫び、隣で眠る娘を起こしてしまうほどだった。もともと姿勢が悪く、長年肩コリに悩まされていたが、この痛みは経験したことがなかった。
私は"四十肩"だと確信した。そして「四十肩って本当に40歳のタイミングでなるんだ……」と体の神秘に驚いた。
鍼治療や整体に行っても症状は軽くならず、病院でレントゲンを撮ってもらうも特に異常無し。医者からは「運動してないでしょ?ストレッチしなさい」と言われたが、これはストレッチなんかで治るような痛みではない。 そう悟った私は、残りの人生を四十肩と共に生きる覚悟を決めた。
1年が過ぎた頃、左肩の不調は心筋梗塞の疑いがあるとネットで知った私は急に怖くなり、久しぶりに病院へ行くことにした。
前回は「全体的に左肩が痛い」と訴えていたが、より具体的に伝えた方が医者も診断しやすいだろうと、待合室で肩をギュウギュウ押しながらトリガーポイントを探ることにした。左肩だけでなく、首や二の腕に至るまで広範囲を揉みながら探し、肩もグルグル回した。
その甲斐あってか、医者の前に座った時には、ナント左肩の痛みはほぼ無くなってしまっていた。
「あのー……1年前から左肩が痛く、上げにくかったんですけど……先ほど待合室でギュウギュウ押してたら、痛みが軽くなりまして……」
気まずそうに肩をスッと上げる私に、
「では引き続きストレッチをしてください」と医者は言った。